第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 大津ミツオ

八百長疑惑で自殺した往年の名投手
彼にまつわる数々の謎の真相は?

『たまらなくグッドバイ』大津ミツオ

 昭和末期の野球界で活躍した左腕投手K・Mは、八百長疑惑で厳重注意を受け、汚名を晴らすことなく自ら命を絶った。二十六年後──地元スタジアム付近の広場で千五百奪三振の記念ボールが発見され、かつての所属球団はKの功績を再評価し、その背番号を永久欠番に指定した。いっぽうKの伝記に着手した作家の芹沢真一郎は、取材先でいくつもの謎に遭遇する。日本シリーズで”誤審”に抗議した相手監督はなぜ引き下がったのか? 打者はなぜ故意に死球を受けたのか? Kの同室だった男はなぜ異変を無視したのか? そして記念ボールは本物なのだろうか?
 芹沢に「K・Mを書いてはみませんか」と勧められた野球嫌いの「あたし」が、関係者たちに話を聞くという体裁のスポーツミステリー。ホワイダニット連作と呼べなくもないが、謎解きの味はすこぶる薄く、告白を中心にした野球小説と見るほうが妥当だろう。そこにサインボールの謎や八百長の真相が加わり、全篇を通じてKの人物像が浮かぶわけだ。
 想いが交錯するシニカルな物語を綴るために、野球ファンではない者のジャーナリスティックな語りを選んだことは、著者のシャープなセンスを感じさせる。文章力も高いレベルで安定しており、一次選考のハードルは軽々とクリアである。

(福井健太)

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