第14回『このミス』大賞 次回作に期待 土屋文平氏コメント

『勿忘草』齋藤詠月
『28日間の沈黙』穂波了
『サイレントキャリア』志駕晃
『イルミナ』坂本つむぎ

土屋文平コメント

『勿忘草』は、30過ぎのサラリーマンが祖父の葬儀から祖先のことを調べ始めて戦時中の秘密基地の秘密を知り、まつわる謎を解いていくオーソドックスな作風で、丁寧に書かれていて人間関係も好感が持ててわかりやすく、防衛庁や民間軍事会社に狙われるなど過去が現代と結びつく工夫もあって、まとまりが良かったぶんだけ少し物足りなく感じました。
『28日間の沈黙』はエレベーターの中で目を覚ますと、死体の腕と自分の腕が手錠で繋がれていて死体の腕を切って逃げるという大胆なシーンから始まってスピード感ではいちばんの力作でした。警察の捜査ぶりや暴力団にリアリティが乏しくて、テンポの良さが少し乱暴さに繋がった印象なのが残念です。
『サイレント・キャリア』はいかにも現代的なネット社会を扱った作品で、謎の自殺サイトを巡って進められる物語は新しい試みとして評価できましたし、文章力も十分にある人だと思いました。むずかしそうな分野も読ませるレベルになっていたと思いました。ただ宗教団体や政治家が出てくるとにわかに嘘くさくなりましたから、ここでもう一工夫なりしてもらいたくなります。
『イルミナ』も間にファンタジー世界をはさむ工夫で、新しさを十分感じ取ることができました。美談ふうに終わるまでの仕掛けが最初から透けてみえたのが残念。こういう終わり方そのものは悪くないのですが。
 あと雨月粉雪『霞の艦隊』は中学3年生とは思えない構想力と文章で舌を巻きました。次回作というより今後に期待、です。

 今年もたくさんの意欲あふれる作品に出会えました。完成度の高い物語でも、時代小説や孤島での殺人事件などにはどうしても厳しくなります。孤独な作業も読む人を楽しませるためですし、神のように世界をひとりだけで創るわけで、相性の悪い下読みに当たっただけだと思って、またぜひ応募してきてください。

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