第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 タスマニアデビルの憂鬱
マンションの隠し扉を開けると、冷凍された撲殺死体が!?
美人で成績優秀な後輩“デビル”にこき使われる、
不動産会社のダメダメ営業マンの恋と推理の奮闘記
『タスマニアデビルの憂鬱』工藤智巳
一読、書籍化するなら表紙はイラストでサイズは文庫だな――と思わせる、ライトなテイストの作品だ。見た目は可愛らしいのに気性がとてつもなく荒い、まるで“タスマニアデビル”のようなキレ者ヒロインと自分を振り回す歳下肉食系女子に想いを寄せる気弱な草食系営業マンのコンビは、キャラクター小説嗜好の強い現在の市場を狙いすましての設定か。今回読んだ応募作のなかでは、もっとも商品に近い完成度の作品といえる。
築五十年近い老朽マンションに持ち上がった建て替え話から、廊下の奥にある“隠し扉”の存在、行方不明の住人、扉のなかに置かれた冷凍庫、そして撲殺死体発見に到るまでの序盤の“つかみ”も、なかなか流暢。主人公の造形が三十三歳バツイチにしては新入社員のように幼い点は一考を要するが、キャラクター小説に愛着のない私でもツルツル読めた点は評価したい。また、いくら好奇心の強い不動産会社の営業だからといって、ここまで危険を顧みず事件を追うか? ――という少々ムチャな展開にも“理由”が用意してあり(もう少し説得力があればと惜しまれるが)、好感が持てる。事件解決後に明らかになる“皮肉”や続編を予感させる幕の閉じ方は“お約束”の域を出てないが、ニヤリとさせるに充分。
斬新さや独創性では一歩譲るが、1次通過に足る出来であることは間違いない。
(宇田川拓也)