第12回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント
『花纏月千』草薙 創志
『三十一文字の呪詛』柚木 綾
古山裕樹コメント
ごくまれに合作の場合もありますが、作者はたいてい一人。おそらくは孤独な作業だと思います。だから、もしもあなたの書いたものを読んでくれる人が身近にいるのなら、ぜひ読んでもらって、そして遠慮のない意見をもらってください。あなたが自信を持っていたアイデアが大して人を惹きつけることができず、むしろ自分では思いもしなかったところが好評で──なんてこともあるかもしれません。
今回、1次通過に至らなかったものの、通過させるかどうかかなり悩んだのはこちらの二作でした。
草薙創志『花纏月千』
ある人物に、現在の日付を誤認させる。これが仕掛けの核。相手が寝たきりの入院患者だったり、あるいは囚人だったり、行動が制限されていれば何とかできそうです。でも、特に身体が束縛されていない、普通の生活を営んでいる人が相手ならば至難の業。その困難に挑んでみせたのがこの作品。そのチャレンジ精神は高く評価したいところです。
……が、これを成立させるために(多重人格の設定も含めて)凄まじく手数の多い仕掛けになってしまい、さらに「誰かと時候の話をしたら……」「どこかでカレンダーを目にしたら……」「TVやネットなどは一切見ないのか」などの懸念や疑問は拭いきれず。
人物の描き方や、言葉遊びのディテール、葬儀店と花屋を舞台にした「日常の謎」の物語は大いに楽しめたので、違う作品での再挑戦を期待しております。
柚木綾『三十一文字の呪詛』
鎌倉幕府と朝廷の暗闘を背景に、藤原定家が殺人と暗号の謎を追う物語。
六歌仙が実際に詠んだ和歌を用いた暗号の組み立てには、きわめて苦労されたのではないかと思います。楽しそうでもありますが。
が、わざわざこのような暗号を仕込むより、危険を冒してでも直接伝えた方が、目的に見合った手段になっていたのでは……という疑問をぬぐい去ることができませんでした(作中でも、いちおう暗号を使った事情が説明されてはいますが……)。
また、藤原定家の追う事件の容疑者が、あっさり絞り込めてしまう(本命以外の容疑者に「もしかしたら」という怪しさがほとんどない)ところも、一次通過に至らなかった要因のひとつです。
テーマの選び方、和歌を使った仕掛けなど、物語の組み立てには光るものを感じました。また、新たな趣向で驚かせていただければ……と思います。
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