第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 金玉さん
巨砲の持ち主だけど、ウブで純情。
そんな金玉さんの幽霊が、エッチな騒動を引き起こす。
彼のやり残したことは何なのか……?
『金玉さん』愛理修
花園進は健康食品会社に勤める若者。ムスコ(こどものことではない)のあだ名は「おそ松くん」。一方、同僚の金玉さんはすごい巨砲の持ち主である。ただし彼の謹厳実直さゆえに、その巨砲が性的に活躍した様子はない。
金玉さんが急死した後、彼の幽霊が風俗街で目撃される。潔癖だった彼がなぜそんなところに? だが、亡き金玉さんは風俗街を荒らしまわって、ヤクザたちが会社に怒鳴り込んできた。騒動に巻き込まれた花園は、対策チームの一員として、会社主催の降霊会を開くことに……。
エロティック・ホラーと言えばいいのだろうか。わりとエロティックでちょっぴりホラー。
全体としては、くだらないお話である。人の心の闇とか社会の病理が暴き出されることもない。でも、そんなのなくてもいいじゃないか。闇雲な過剰さに頼ることなく、適度なバランスの上に成り立った、よけいなもののない高純度のエンターテインメント作品なのだ。
いたってバカバカしくも愉快なお話が繰り広げられる。そのテンポが心地よい。ヤクザの来訪から降霊会、降霊会を経てさらなる怪異の到来……と、次から次へと変化する局面をユーモラスに、そしてちょっぴりの謎とサスペンスを伴って描いてみせる。
物語があまりに軽快に進むので気づきにくいけれど、ところどころにちょっとした伏線を仕掛けておいて、後からきちんと回収してみせるなど、物語を読ませるための配慮もしっかりしている。軽妙さと色気が駆動する物語は、その指針が揺らぐこともなく、壮絶なのに微笑ましい、下品なのに純真なクライマックスへと突き進む。
読んでいた間、口元はずっと緩んでいた。ふわふわした楽しさと、それを支える技量を高く評価したい。
(古山裕樹)