第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 ティーンエイジ・エイリアン・サマー

四人の中学生と一人のフリーター。
うんざりするような日常からの脱出願望が、
殺人計画として動き出す。

『ティーンエイジ・エイリアン・サマー』村木祐

 語り口が頭から離れない。鮮やかなイメージが脳に焼き付けられる。小説で大事なのは、何を語るかよりも、いかに語るか──それを痛感させてくれる作品だ。
 かつていじめられていた少年。退屈な日常を空想で紛らわす彼には、家にも学校にも居場所がない。優等生だけど口下手で、過去の挫折を引きずる少女も、同じく居場所がない。少女の姉は、逃げ出すことを夢に見ながら、フリーター生活を送っている。クラスのみんなに好かれる美少女や、容姿と頭脳に恵まれた人気者の少年も、家庭の中にいびつな秘密を抱えていた。──そんな五人が、殺人の準備を進め、そして実行に移す。満たされている者はいない。誰もが脱出願望を抱えている。ここではないどこかを求めて。一線を超えることを求めて。
 歪みと苛立ちをかかえた中学生たち(と、二十歳のフリーター)の、それぞれの背景を語るエピソードを積み重ねつつ、五人の進める犯罪計画とその顛末が語られる。スタイリッシュな犯罪小説であり、不穏な青春小説でもある。
 五人それぞれの抱えた鬱屈はきわめて現代的な、そしてどこか既視感のあるものだが、ひとつひとつの要素を五人のキャラクターに配分する組み合わせの巧みさと、結果としての人物造形のおかげで、凡庸とは感じさせない。
 五人の背景や内面だけでなく、犯行計画のディテールもしっかり描き込まれている。入念な計画と準備。それぞれの役割分担。不測の事態とその対処。犯罪小説としても手堅く組み立てられている。主力が中学生だけに、大人と同じようにはできないこともある。そうした制約をどう解決するのか、あるいは解決できないのか。そういった部分でも読ませる作品だ。
 そして何より、物語の構成と独特の語り口が印象深い。今回読んだ応募作の中では、最も個性を感じさせるスタイルだった。

(古山裕樹)

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