第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 水底の解

その屋敷がある森では、不思議な事件が起きていた。
ノートに記された「世界の方程式」を解き明かせば、
森の秘密も明らかになるのか……?

『水底の解』河合穂高

 ストーリーもさることながら、描写が喚起する「絵」が忘れがたい作品である。
 大学時代に親しかった四人。だが、一人が事故で死んだ。彼──山部と共に暮らすはずだった初美から、香梨と碧に手紙が届いたのは、事故から一年近くが過ぎた冬。手紙の内容は、閉鎖された炭鉱のある森に建つ屋敷への誘いだった。初美は、二人にこの屋敷に住んでほしいという。そうすれば、また四人で会うことができる、と。屋敷に向かった香梨は、山部が残した「世界の方程式」という膨大なノートを見つける。そして初美の姿はなかった。香梨はノートを解読しようと努める。いっぽう碧は、かつてこの土地で起きた奇妙な事件のことを知る。旧炭鉱に迷い込んだ子供が、砂糖漬けの白い結晶のようなものになって発見されたというのだ……。
 二人のヒロインが謎めいた屋敷を訪れて、姿を消した友人の行方と、その背景にある森の秘密を探る。不穏な予兆から不思議な現象、そして過去の怪事件へと繋いで、やがて森に隠された秘密の全貌が明かされる……という流れは、この手の物語の常道であり、その典型をしっかり組み立てている。
 森に建つ古い屋敷。白い結晶になった少年。閉ざされた炭鉱──そうしたひとつひとつの「絵」を、実に魅力的に描いている。そして、物語が進むにつれて浮上する、森に隠されたある存在。これが、さらにいくつもの「絵」を生み出す。
 ヒロインが秘密を追求するストーリーはしっかりと組み立てられているけれど、それ以上にイメージの喚起に重きを置いた物語である。それはホラーとしての本作の強みでもある。
 かなり「なんでもあり」な設定を組み込んでいるがゆえに、その自由度の高さに書き手の側が振り回されているところが散見される。それでも、全体を通してみた水準は高い。

(古山裕樹)

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