第12回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント
『僕の世界』入江 朝子
北原尚彦コメント
まず枚数について。これまでにも枚数については述べてきましたが、規定は必ず守るようにして下さい。1次選考以前に枚数チェックが行われるようになり、規定に全く合わないものはその段階で外されることになりました。「枚数は足りないけれど、自信はあるから読んでさえもらえれば……」という甘い考えは、全く通用しません。読まれないのです。そもそも枚数の調整ができないようでは、作家としてやっていけません。「何枚の原稿をお願いします」という形で、依頼が来るのが普通ですから。
また、小説の新人賞に応募する場合は、その賞のジャンルをよく考えてください。『このミステリーがすごい!』大賞は、その名の通りミステリーの賞です。かなり広義のエンターティンメントではありますが、基本はミステリーです。今回、他ジャンルの小説賞で候補になったことのある方からの応募がありました。チャレンジは歓迎ですが、賞の傾向はきちんと把握して下さい。本当に賞を取りたいなら、過去の受賞作に眼を通しておくべきでしょう。
さて、今回の「次回作に期待」作品は、入江朝子『僕の世界』です。
名家に生まれた平川颯太は、八歳の時に母親が殺される現場を目撃する。その後父と姉とともに転居した、亡き祖父の地元で少女が行方不明になる事件が発生するが、颯太はその犯人扱いされる。結局、颯太は新潟の親類へ引き取られ、姉もスイスへ行くことになった。
二十七年後、ニューヨーク市警の検視官となった颯太は、父からの呼び出しで帰国する。しかし帰宅した颯太を迎えたのは、父と義母の死体だった。更に近隣でも、幾つかの一家が惨殺されていた。果たして何が起こっているのか、そして二十七年前に何があったのか……。
平川颯太という人物と、彼の人生につきまとう事件と謎を追う物語である。
……冒頭部分、かなり説明過多でした。読者が手にとってくれても、最初が詰まらなければ本を閉じられてしまいます。始まりから強く惹きつけないと、読んでもらえません。
視点に無頓着なのも気になりました。ひとつの段落でコロコロ視点が変わっては、読者が混乱します。
また、背景となる場所については、もう少し描写しましょう。作中、ニューヨークが舞台となるパートがあるのですが、そこがあまりニューヨークらしく感じられませんでした。
更に、ところどころ形容のおかしなところがあったので、常に手元に辞書を置きながら書くとよいでしょう。少しでも用法に疑問があったら、辞書を引いて下さい。
テクニカルな部分で磨きをかければ、全体としての創作技量はかなりアップするはずです。
これから賞に応募しよう、という人は、他の人の応募作品に対する講評も、読んでおいた方がいいですよ。選考委員が、どのようなポイントに注意して選考するかが、分かりますから。
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