第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 maman~殺戮の天使~

荒廃した近未来のアキバで、奇怪な死体が発見される。
かつてカルト的人気を博したマンガそっくりの殺し方で。
トランスジェンダー美人警部と新米刑事のコンビが謎を追う

『maman~殺戮の天使~』KT

 近未来、日本は経済破綻し、荒廃していた。失業率は二十パーセントを超え、無職の人間の多くは家を失いホームレスになっている。
 アキバ(秋葉原)は無法地帯のゴーストタウンと化し、死体の捨て場に使われることから「死体アキバ」とまで呼ばれていた。そんなアキバで、奇怪な死体が発見される。六十歳前後の男性だが赤ん坊のような格好で、ベビーカーに無理やり載せられていた。そして、全身に針が刺さっていたのだ。 
 所轄の刑事・東亨は、本庁の麻波リコという美人警部とコンビを組んでこの事件を担当することとなった。だが麻波リコというのは、本当は男性でニューハーフだった。彼女の双子の姉は自殺したのだが、その死に疑問を抱き、結果として警察官になったのである。
 捜査を進めるうち、件の殺人が、かつてカルト的な人気を博した「maman」という同人マンガの内容を再現したものだと判明する。だがそのマンガの作者はどこの何者かも不明だった。
 mamanによる殺人は続く。死因となる薬物が十年前に蔓延したものと類似していることが判明し、東とリコは薬物製作者を追い始める。果たしてmamanとは何者なのか、そしてその目的は……。
 近未来を舞台にした異色サスペンス。バディ物でもあり、やや平凡な東亨(配属五年の新米刑事)と、キャラ立ちまくりの麻波リコ(トランスジェンダー警部)というコンビがいい味を出している。リコの過去や、現在の生活状況なども絵空事にならず、かつストーリーとも結びついている。そんなキャラクターたちが荒廃した日本社会を背景に行動し、ひとつの世界を見事に構築している。
 作者は映像関係の仕事をしている方とのことで、なるほど実に視覚的なシーンが満載である。映像化すると、面白そうだ。
「オタク」に関する定義や描写がやや表層的に過ぎるところは、ちょっと弱点。本筋に拘わることなので、これは訂正が必要と思われる。他にも説明が過多になり過ぎているところや、科学的に疑問のある記述で一部修正した方がよいところなどもあるが、これらは簡単に直せるだろう。それらを勘案した上で、1次通過である。

(北原尚彦)

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