第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 飛洲DMZ
首都となった未来の大阪で、殺人事件が。
不良外人組織とヤクザ組織との抗争か。
男たちの思惑は交錯し、ぶつかり合う……
『飛洲DMZ』杉成就
二〇三九年、大阪湾に浮かぶ人口の島で、特別行政区となっている「飛洲(とびしま)」。そこで不良外人集団「ギャングスタ」のメンバー二人が、立て続けに殺害されるという事件が起こった。「宗大組」の宗像組長がその黒幕と目され、ギャングスタの大引たちは偽装ラブホテルで宗像の拉致を目論むが、いざ行ってみると既に組長は死亡していた。
警察では、これらの事件は両団体の抗争である可能性が高いと判断し、飛洲南署に捜査本部が立てられた。
巡査部長の南田康彦はこの事件に執着し、自分の担当ではないにも拘わらず、あえて休暇を取ってまで本件の調査を始める。ギャングスタのトップであるビッグCという男を捜すうちに、宗像殺害の被疑者である陳黎明(チン・リーミン)という女とも遭遇する。
一方、元ヤクザの黒木場隆も、死ぬ直前の宗像と会っていたばかりに、殺害の疑いをかけられた。自らの潔白を証明するため、彼も動き始める。
交錯する様々な思惑。ぶつかり合う男たち。果たして真相はどこに……。
二〇三九年が舞台、しかも「大阪都」となっているので、首都は東京から大阪に移っているらしい――ということで、SF的興味を持って読み始めた。ところがどっこい、本作の眼目はそこにはなかった。この作品の魅力は、ノワール小説的な側面にこそあったのである。次々と描かれるダークな世界。それを成り立たせるがゆえの、未来設定だったのだ。とはいえ、仮想現実などのガジェットもうまく利用され、ただ都合のいい展開にするためだけに未来にしたわけでもない。その辺りのバランスは、うまく取れていると思う。終盤、ちょっと整理が必要かもしれないが、十分修正可能だろう。
連発される関西弁のリズムもよく、テンポよく読める「近未来大阪ノワール」である。
(北原尚彦)