第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 沈黙の死闘
全身麻痺となった刑事が、濡れ衣を着せられる。
入院中の病院が襲撃され、犯人たちは立てこもった。
動けぬ刑事が、いかにして凶悪犯たちと戦うのか?
『沈黙の死闘』岡辰郎
北海道警察の所轄刑事、佐伯剛は部下の金森からの情報により、麻薬密売現場を張り込む。だが一味に発見された挙句、爆発に巻き込まれてしまう。その際に脳梗塞の発作を起こし、病院へ搬送されるが、全身麻痺状態となった。
現場には金森の血痕も残っていた上、佐伯のロッカーからは娘の多恵名義で二億円を通過させた通帳が発見されて、警察は騒然となる。佐伯は個室で警察に監視され、付き添っていた多恵も任意同行を求められる。
肝心の佐伯は、身体は動かすことはできないものの意識は保っていた。いわゆるロックドイン・シンドロームである。彼は聞こえた情報から、自分が罠にはめられたことに気付く。
麻薬組織の面々は、正体不明の首謀者に強要されて行動していた。そのため二億円の在り処を聞き出そうと佐伯の病室を襲った結果、警察と衝突し、患者や関係者を人質にしての病院立てこもりへと発展する。
片手だけ動くようになった佐伯はiPodを駆使して情報戦を開始する。彼は果たして濡れ衣を晴らし、娘を含む人質を解放することができるのか……。
病院全体が人質になっている中、身体を動かせない主人公がいかに戦うか、という小説である。シチュエーションは魅力たっぷりだ。主人公のキャラ設定も、ただ全身麻痺の警官というだけでなく、家族関係などきちんと考えられており、深みが増している。
また主人公が動けない分、周囲のキャラクターたちが動き回って活躍するのだが、それも見せ場のひとつ。アクション、スペクタクルシーンもバランスよく配置されているし、後半で明らかになる真相もうまく考えてある。1次選考通過の実力はあるだろう。
(北原尚彦)