第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 俺たちはヒーローじゃない
刑事と容疑者が手錠で繋がった!?
妙な縁で結ばれた2人の男が
スタコラサッサと珍道中
『俺たちはヒーローじゃない』春畑行成
深沢警察署強行犯係の小林は、恩人の警察官が刺された交番襲撃事件に関するいざこざの影響で警視庁の刑事を殴ってしまった。その結果、それまで担当していた連続爆破事件の捜査を外された小林は、新たな任務の最中に一人の怪しげな金髪の若者と出くわす。若者を追ってきたヤクザとのもめ事のなか、小林は彼と手錠で繋がってしまう。そして二人はヤクザから逃れるべく、川へとダイブした。その後、手錠でつながれたまま二人は行動をともにするのだが、小林は、その金髪の若者・田村が、交番襲撃事件の容疑者であることに気付く。田村はそれを否定するが……。
妙な縁で結ばれた――それもフィジカルに結ばれてしまった――二人の男たちが、あちらこちら訪ね歩く物語である。珍道中といってもよかろう。その模様が、この作品の最大の魅力だ。会話のテンポがよく、しかも、田村の返答が意外性に富んでいてよい。二人とも世間の規範から外れた行動を取るが、それもまた物語に心地良い躍動感を与えている。
というわけで、結末まで一気に愉しく読めた。まずはこの点を強調しておきたい。
そのうえでだが、悩ましい点がないわけではない。最も気になったのは、事件の多さだ。連続爆破事件に交番襲撃事件、ヤクザの会長の孫娘失踪事件、さらに新たな爆発事件。これらが原稿用紙550枚ほどのなかに詰め込まれているのだ。物語に盛り込む必然性はそれなりにきっちりとエクスキューズされているが、それぞれ存在感のある事件だけに、それでもなお全体としてせわしない展開となってしまっている。手錠で繋がれた二人があちこち移動するという構造のせいもあり、どうにもガチャガチャした印象だ。キャラクターもよく展開もよく、さらに心に沁みるような要素も盛り込まれているだけに、規定枚数(650枚)と内容のバランスを考えてみる余地はあっただろう。
ちなみに読み終えてから気付いたのだが、本作品の著者は、過去にも本賞で1次や2次を通過した経験をお持ちである。それらの作品より、私としてはずっと愉しく読めたことも記しておこう。
(村上貴史)