第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 正邪の獄
二人は刑事に、二人は泥棒に――。
別の道を歩む幼なじみ四人組の今を描いた
刺激的な展開の刑事&犯罪小説
『正邪の獄』影山匙
幼なじみの男子四人組。桜庭と清水は、長じて刑事となった。久間と兵衛は泥棒となった。故郷の鷺ノ下市でこの二組が再会した翌日、事件が起きた。桜庭の恋人が遺体で見つかったのだ。強盗の仕業らしいが……。
まるで別の方向に育ってしまった二組の間に流れる微妙な空気感が、まず、実に良く書けている。親しみを覚えつつ、どこかで相手を探っている。冒頭でこうした描写をしっかりと行ってあるため、読み手は、すんなりと作品の世界に入っていけるのだ。刑事ペアと泥棒ペアが幼なじみという設定には作り物っぽさがたっぷりと漂うが、彼等の人間関係には作り物っぽさはない。そこが魅力であり、また、安心して物語に身を委ねるためのよりどころともなっている
そしてその安心感があるからこそ、中盤から物語が激しく動き始めても――ストーリーが暴れ出すといってもよかろう――それを十分に堪能することが出来る。「いやはやまさかあそこであれがああなるなんて」という衝撃が中盤に差し掛かったあたりで読者を待ち受けているのだが、作者への信頼感があるから、そこで物語から醒めてしまうことがないのだ。
その衝撃から先も、物語は意外な展開を続ける。骨格だけを取り出してみれば強引ではあるが、それをそうと感じさせない技量を、この著者は備えている。キャラクターの魅力であり、事件そのものの意外性や描き方、あるいは並べ方の巧みさである。
欲をいえば、物語のたたみ方にもう一工夫欲しかったという想いもある。もちろん、きっちりと着地してはいるのだが、物語の破天荒さをそれと感じさせない技量で読ませるという絶妙のバランスは後半に入っても維持されていたのだから、そのまま結末までなだれ込んで欲しかった。それで破綻しない保証はないのだが、これぞ大賞候補と無条件で二重丸をつけるには、少しばかり無難に過ぎたようにも思う。そこが2次選考以降でどう評価されるか。力のある小説だけに、読み手をついつい欲張りにさせてしまうのである。
(村上貴史)