第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 無明長夜
かつての仲間を殺された元刺客が
奪われた名刀の謎を追う
迫真のハードボイルド時代小説
『無明長夜』三好昌子
津山松平家の国家老・津鷹惚吾郎の命を受け、刺客“死手組”の一員として暗躍した御刀屋清一郎は、領主交替によって国を追放された。六年後──京都の戯作者“月夜乃行馬”として暮らす清一郎は、書肆の主人の勧めで絵草紙に取り掛かった矢先、かつての仲間・横田源之丞に思いがけない話を聞かされる。元死手組の二人が殺されたらしい。さらに木村新衛門が斃され、下手人が(自分が持っているはずの)般若刀を使うことを知った清一郎は、木村の遺した日誌を手に入れるのだが……。
昔の仲間を次々に殺された元暗殺者が、盗まれた刀の由来と隠された経緯を知り、身近に潜んでいた真実に対峙するという時代小説。江戸時代の物語ではあるものの、罪悪感を抱えたヒーロー、魅力的な道具立て、シビアな状況を演出するプロットなどは現代小説のファンにも興味深いはずだ。ハードボイルドの切り口と剣劇モノを重ねることで、間口の広い娯楽作を仕上げたスキルを高く評価したい。
著者は松本清張賞の最終候補に(この五年間で)三度選ばれており、質量ともに安定した創作が期待できる。時代小説が本賞を射止めた前例はないが、本作はその候補になり得るだろう。
(福井健太)