第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 真相を暴くための面倒な手続き
元警察官はなぜ銀行に立て籠もったのか?
都市伝説として語られる“秘密組織”が
歴史の暗部に挑むトリッキーなサスペンス
『真相を暴くための面倒な手続き』梶永正史
渋谷の銀行で立て籠もり事件が発生し、犯人グループは現場指揮官および交渉役として、警視庁捜査二課の主任代理・郷間彩香を指名した。郷間はSITの後藤警部とともに任務に就くが、そこへ警察庁から派遣されたという男・吉田が現れる。吉田はSATのスナイパーを同伴させていた。あっけない形で主犯──元警視庁捜査二課の國井とコンタクトを取った郷間は、彼らの目的が金銭ではないことに気付く。解放された人質の証言から“ブラッドユニット”(元警察官たちの秘密組織)の関与を察した郷間は、人質のジャーナリストによる通報を受け、國井の真の目的に辿り着くのだった。
平凡な銀行強盗(に見える騒動)を発端として、都市伝説めいた秘密組織を絡めつつ、政財界のスキャンダルを抉り出す野心的なサスペンス。複数の視点を並べて全容を示す構成は妥当だが、独白などの表現力に欠けるため、やや読み辛い面があるのは気になるところだ。ブラッドユニットは一種のファンタジーと割り切るにせよ、警察周辺のリアリティにも疑問点は多い。とはいえ物語の流れは順調なもので、エンタテインメントに徹した姿勢には好感が持てる。隠された過去とクライマックスは漫画的にも見えるが、これは充分に許容範囲だろう。タイトルのセンスも秀逸である。
(福井健太)