第12回『このミス』大賞 次回作に期待 土屋文平氏コメント
『火振る神』上山 和音
『光る街』嶺里 俊介
『四つ墓穴』鍵楼 錦
土屋文平コメント
読ませていただいたどの小説にも、よくこれだけの枚数を書けるものだなあ、という思いを抱きました。もちろん、まだ書きなれていない、「意外と」を「以外と」と書くひとがかなり見受けられるなど、誤字脱字のチェックの足りない作品が半数はあって、残念な気持ちにもなりました。それでも、新しい物語を創ろうとする試みには、頭が下がります。ひとりひとりに、あきらめないで続けてください、とお願いしたいです。
惜しかったと感じた作品は上山和音『火振る神』です。丹後半島の地域性を生かした小説で、丁寧さには好感を持ちました。地方新聞の新人女性記者を探偵役にして、丹後ちりめんと天女の羽衣伝説を取材させる過程に、ちりめん工場の女工だった老女たちの復讐劇を絡ませて進むテンポも良くて、水準としてはクリアできていると思います。ただ、どうしてもひっかかった点がひとつありました。工場の社長一族が非道なことをするのは、悪いやつを設定するため必要だったにしても、一面的で奥行きが無さすぎるように、女性記者にはセクハラする警官も出てきて、全体に、男性不信で固まった感が否めないのです。これは小説の興をそぎました。ちゃんとした男性も登場させれば、と残念に思います。嶺里俊介『光る街』は情報化都市の光ケーブルを使った新しいアイデアに見るべきものがありました。あと鍵楼錦『四つ墓穴』の自分勝手な女性の人物造形は楽しめました。