第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 勇者たちの挽歌

女子マラソン選手が意外な活躍
撃墜された航空機で預かった秘密とは。
目を離せない軍事アクション小説

『勇者たちの挽歌』小池康弘

 アトランタで金メダル、北京で惨敗の女子マラソンランナー早瀬恭子は、ロンドンオリンピック解説の帰途、乗り合わせた政府専用機がミサイルのよって撃墜され、生き残り、瀕死の人物からある容器を託される。自衛隊エリート部隊の選抜訓練中の速水たけるは、大雪山で航空機の墜落と救出機も撃墜されるのを目撃する。報告を受けた官邸のシーンで背景が明かされる。テロリスト集団がキメラウイルスのサンプルを送ってきて、200億円の要求をしてきたので、政府専用機でワクチンを運んでいたのだ。襲っているのは、ワクチンを狙う装備たっぷりの傭兵集団。さあ、素人の早瀬は脚力だけで日本を救えるか。訓練で右足負傷の速水は早瀬と出会って助けることができるのか。救いに現れた中野学校出身の老人の正体は? 国道へ早瀬と速見が辿り着いたあとは、ロケット砲に地雷など、戦闘シーンというより戦争シーンと言ったほうが良さそうな、派手な展開が繰り広げられる。そして、最後に黒幕とその狙いがわかり、ハリウッド映画ばりの派手なエンディング。
 評価できるのは、女子マラソン選手を起用した発想のユニークさ。軍事用語にも不自然さはなく、娯楽活劇として無駄なく進めている点も悪くないと思います。正義の側と悪役がステレオタイプなのも、この類の小説ですから仕方のないことでしょう。終戦時のシーンなど変化をつけるための工夫もしてありますし。つまり、完成度が高い。日本でドンパチやろうとすると薄っぺらになるのを、無人の舞台を設定して、これはこれで、あり、という水準になっています。この手の小説を歓迎するのは限られた層のような気がして、海外の軍事アクション小説は途切れずに翻訳されていますから、それで十分とするのか、いや日本でも成立するのを読者が歓迎するのか、私には判断しづらいところです。

(土屋文平)

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