第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 生き霊

男児の変死体が見つかった。
DNA検査の結果、犯人は刑務所の中に
謎が謎を呼ぶサスペンス

『生き霊』越谷友華

 埼玉県草加市で見つかった男児の死体は全裸で肛門に木の枝が突っ込まれている残虐な形。16年前の猟奇事件を誰もが思い出した。精液の着いたティッシュが近くで発見されて、鑑定の結果、16年前の事件の犯人と一致した。18歳で犯行に及んだ坂本一寛はまだ仙台の刑務所に収監されていた。8年前、妹の娘が8歳で殺されたという過去のある刑事荒巻和夫が懸命に捜査を始める。16年前の事件の被害者の父親も家庭崩壊ですさんだ暮らしをしていたところに事件を知り、警察を偽って関係者を尋ねまわる。
 刑務所で坂本から荒巻は自分の生霊の犯行だと謎の言葉を得る。最近出所した男を探るが犯人ではなかった。坂本と生き写しの男堂島篤志の存在を知った松原が直接聞き込みに行くと、その後襲われる。襲ったらしい刑務所の異常な看守は自殺する。坂本は捨て子で児童養護施設で育ったのだった。その背景に動機があったのか、どうやって刑務所にいる人間のDNAが持ち出されたのか、荒巻は恐ろしい真相に辿りつく。
 冒頭にさっと謎の提示があって、追いかけていくと少しずつ解明されて、また新しい謎が生まれて、というオーソドックスな形です。刑務所の用語などのリアリティもあります。後半で妙な存在感のあるヤクザの同房者も効果を上げています。
 ただこの暗い事件のトーンが、最近翻訳の多い北欧のミステリーを日本に置き換えました、という印象は拭えません。あちらのは、まだ捜査する側の人物にユニークな個性を与えて工夫してあるので、よけいに薄さを感じます。殺人を犯さないと生きていけない異常者の怖さもラストでいまひとつ伝わりにくいようです。
 しっかり無駄なく話を進めるいさぎよさと、トーンに乱れのなかったことを評価します。こういうのが好みの読者がいるのかもしれません。

(土屋文平)

通過作品一覧に戻る