第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 流星雨
記録的集中豪雨が襲う中で発生した通り魔事件。
七人の命を奪った犯人はどこに?
『流星雨』檎克比朗
九月一日土曜日の早朝。未明から降り始めた雨がピークを迎え、1メートル先すら目視できない記録的な集中豪雨が降り注ぐ中、被害状況を取材するために市内最大のショッピングストリート、アマテラスアベニューを訪れた新聞記者・手嶋は、どす黒くたまった水の中に複数の人が浮いているのを発見した。しかも死体の腹部には刃物による刺し傷が。特ダネの予感に興奮する手嶋だが、姉・雪からかかってきた電話に、頭の中が真っ白になる。震える声で彼女は告げた。「さっき腕を切りつけられたの。アマテラスアベニューで」と。
一方、土砂降りの中、ほうほうの体でゴミ収集から戻った清掃業者・田元は、痴呆で寝たきりの父親がいつの間にか姿を消していたと妻から聞かされ呆然とする。翌日、探しに出た彼は、父親がアベニュー近くの湖に浮いているのを発見する。
大雨が災いして物的証拠も目撃情報も得られないままに、連続通り魔事件の早期解決を迫られる捜査一課長・辰巳は、一命を取り留めた被害者の暴力団員が何かを隠していると確信。やがて事件の裏に県警の汚職疑惑が見え隠れしてくるが……。
力強い物語だ。手嶋、田元、辰巳の三人を始め、すべての登場人物がしっかりと作り込まれているので、彼らが織りなすドラマが真実味を持って迫ってくる。事件と対峙せざるを得なくなった者たちが抱える怒り、悲しみ、葛藤、懊悩、そして諦念と願望が読んでいて胸に響いてくるのだ。
堅固な骨組みの上に、歯ごたえのあるドラマを肉付け、練度の高いミステリに仕上げられたこの作品を、自信を持って1次通過作品として推す。
(膳所善造)