第12回『このミス』大賞 1次選考通過作品 ホテル・カリフォルニア

砂漠の奥地に建つ館で連続殺人に巻き込まれた気ままな二人組。
イーグルスの名曲を手掛かりに日本人ミュージシャンが謎を解く。

『ホテル・カリフォルニア』村上暢

 ロックの本場の空気を肌で感じてやろうと渡米した21歳の日本人ミュージシャン・トミーこと富井仁。ヒッチハイクで西海岸を目指す彼は、ラジカセとバンジョーをお供にビュイック・リビエラを転がして気ままに旅するアフリカ系アメリカ人のジミーと出会う。順調にルート66を西へと進んでいた二人だが、ジミーがモハーベ砂漠の奥地に突如現れた“奇跡の泉”を見たいと言い出したのが不運の始まりだった。案の定、砂漠の中で道に迷い、暗い砂の海を彷徨う二人の前に、忽然と巨大な館が姿を現す。一部の富裕層のみがその存在を知る超高級隠れ家「ホテル・カリフォルニア」。ひょんなことから、ここで下働きをする羽目になった二人だが、やがて殺人事件に巻き込まれてしまう。連夜開かれるパーティで歌を披露する女たちのリーダー「歌姫」が、密室で喉に短剣を突き立てられた状態で発見されたのだ。有力な容疑者は三人。持ち前の音楽に関する知識を総動員して事件解決に乗り出すトミーだが、やがて不可思議な状況下で二人目の犠牲者が。果たして犯人は? 方法は? そしてその目的は?
 読んでいて、ついつい頬が緩んでしまいました。作者は、密室殺人に不可能犯罪、謎のメッセージといった本格ミステリの定番をこれでもかとばかりに盛り込み、律儀に伏線を張り布石を打った上で直球勝負の謎解きを展開してくれます。探偵役がミュージシャンという設定に必然性がある点もグッド。ロック――特にイーグルス――に関する蘊蓄が多すぎて若干バランスを崩しているところが難点ですが、個性のはっきりとした対照的なコンビによる掛け合いの面白さや、道中もの特有の非日常感がもたらすわくわくとした感覚を味わえる、1次を通過する力を十分に備えた作品です。

(膳所善造)

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