第11回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント

『ぼくたちの太陽』村木奏介
『謎ニモマケズ』水月彩人

北原尚彦コメント

 今回、1次選考をしていて特に気になったことを。以下に取り上げた作品ではないけれども、複数の作品に共通していたことなので。警察官がお互いに「○○刑事」「××刑事」と呼び合っているシーンが、幾つもの作品に出てきました。現代日本の警察で「刑事」というのは、階級ではありません。ですから警察官同士が「○○刑事」と呼ぶのはおかしい。いまどき、テレビのサスペンスドラマでも、その辺はちゃんとしています。
 警察官を出したければ、その階級や職分についてきちんと調べて書いて下さい。これはもちろん、警察のことに限らず全ての事物について言えることですが。
 一方、実際に警察にお勤めである、もしくは警察にお勤めだったという方の原稿が複数ありました。こういう、特殊な知識をお持ちの方の作品は大歓迎です。ですが、残念ながら小説としての出来がまだまだで、ここに取り上げることはできませんでした。もっと沢山の小説をお読み頂き、それらと自分の作品がどう違うか、とっくりと検分してみて下さい。
 これは前にも書いたかもしれませんが、「自分の特殊な知識を生かして作品を書く」ということと「自分の知っている範囲のことだけで作品を書く」のとでは大違いです。そこのところをはき違えないでください。

 さて、では本題の「次回作に期待」作品に入る。正に前述した「特殊な知識を生かした作品」だったのが、村木奏介『ぼくたちの太陽』
 主人公は14歳のとき、同い年のレイという少女と出会う。美しく大人びたレイに主人公は恋をし、会う度に親密度を増していく。
 だがレイの義理の父親が人を殺したという事件が起こって以来、主人公はレイと距離を置く。そして彼女から呼び出されたのに、待ち合わせ場所へは行かなかった。その後のレイのことは判らない。
 10年後、主人公は弁護士になった。そして義父を殺して逮捕されたという女性がレイだと知り、彼女に会いに行く。やがて現在、そして過去の真相が明らかになっていく……という話。
 文章は悪くないし、中学生時代の甘酸っぱい思い出もうまく描かれている。また後半で作者の職業が生かされている。――そう、作者は現在弁護士をしておられるのだ。
 しかし残念ながら、ストーリーが完全に予想の範囲内で終わってしまった。最後に明かされる事実も、簡単に予想できる。やはり、読者に全く予想できない意外な事実でありながら、謎にぴったり合致する真相、そういうものを考えて頂きたい。
 そしてもう1作、水月彩人『謎ニモマケズ』。タイトルからも予想できる通り、宮沢賢治が登場するミステリである。
 時は昭和5年5月。飛行船「月光號」記念初飛行に、宮沢賢治は招待された。霞ヶ浦飛行場を飛び立った飛行船には、他にも新聞記者の市川、藤吉海軍少佐、柏木逓信省書記官、一色子爵、ジャズシンガーの可那子など、様々な人間が乗っていた。
 そんな中、一色子爵がナイフで刺殺される。現場には一色の「密通ノ罪」を指摘する斬奸状が残されていた。だが悲劇はそれで終わりではなかった。空中にある飛行船は、一種の密室である。果たして犯人は誰なのか。宮沢賢治は、成り行きから犯人探しをすることになる……。
 作者は第9回の『このミステリーがすごい!』大賞に『悲しみのマリアは暁を待つ』で応募し、1次選考を通過している。(その際にも、1次で選考したのはたまたまわたしだった。)『悲しみ…』は古い時代の外国を舞台にしている、ということもあり、説明が多めなのも許容範囲と判断した。しかし今回の作品は日本が舞台だし、時代も昭和だ(もっとも昭和初期、ではあるが)。それだと、説明をもうちょっとさらっとしないと、読んでいる側が煩わしく思ってしまうだろう。全体に調べたことを詰め込みすぎている感があるので、うまく消化した上でストーリーに溶け込ませて頂きたい。あと、物事を表現する際の形容に、もっと独自性を持たせて欲しい。今のままだと、どこかで聞いたことのある言い回しばかりである。肝心のメイントリックも、ありがちだった。自分なりの表現、自分なりの文章、そして自分なりの発想を発揮できるようにして頂きたい。

 最後に応募者の皆さんへ。これはもう毎年の繰り返しになってしまっていますが、プリントアウトしたら、最低1回は読み返して下さい。読み返しをしていないプリントアウトは、未完成品だと思って下さい。そのための時間を考えて、書き上げること。訂正打ち込み、再プリントアウトが間に合わなければ、手書きで直しても構いません。きちんと読んでもらおう、という心構えがなければ、賞はとれません。作家になろうと思うならば、常に読み手のことを考えて下さい。

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