第11回『このミス』大賞 次回作に期待 福井健太氏コメント

『Cafe-In(カフェ-イン)』天城智伊
『革命計画』真田蛹
『鳴かぬなら、』文月文
『ランナーズバイブル』那古智洋

福井健太コメント

 エンタテインメントの質は“作り手の技量”と“対象を楽しませる意識”の乗算によって生まれる。いかに立派なテーマや主張を用意し、巧みな表現を操ったところで、サービス業の自覚が無ければ成功はおぼつかない。受賞作はエンタテインメント商品になる――という前提をきちんと理解することは、投稿者にとっての指針になり得るはずだ。
 別の言い方をすれば、娯楽性を踏まえている著者は「次回作に期待」できる。天城智伊『Cafe-In(カフェ-イン)』は、コーヒーショップの些細な顛末を通じて、3人の男たちの運命が激変していく物語。偶然のシステムをより複雑に(ゲーム的に)する手もありそうだが、スマートな趣向はそれ自体が魅力的だ。エピソードの連鎖が面白いだけに、それぞれのドラマにも工夫が欲しかった。
 真田蛹『革命計画』は洗脳された少女の視点から描かれる近未来SF。序盤の掴みは極めてばかげたものだが、断片化された意識を挿入し、シビアな現実を透かすことで不気味さが醸されていく。軽い語り口と過酷なシチュエーションを重ね合わせ、読む者にグロテスクな余韻を残す野心作である。
 文月文『鳴かぬなら、』は、喋ることが苦手な高校生の「僕」が2年前の転落死を調べていく学園ミステリ。やや小粒な印象はあるものの、容疑者との競技ディベートの場を設定し、特殊ルールを謎解きに繋げた(円居挽を思わせる)アイデアは興味深い。この発想はさらに応用が利きそうだ。
 那古智洋『ランナーズバイブル』は、高校生たちを中心に据え、アクションと殺人犯探しを詰め込んだ”娯楽読み物”である。幻のスプリンターにして、天才的な記憶力を持ち、見聞きしたものを真似られる――そんな金髪碧眼の美少女クリスの存在感は圧倒的だが、多くの要素を入れようとした結果、全体のバランスを崩している感は否めない。サービス精神を評価したうえで、著者には短く纏める技術を望みたいところだ。

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