第11回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『夏の犬』りきまる写真館
『秘密の景色』新戸皆紀

村上貴史コメント

 今回の1次予選で数多く目に付いたのが、特殊な環境を設定し、その環境及びその世界のルールのなかで物語を展開するという作品である。高見広春『バトル・ロワイヤル』や米澤穂信『インシテミル』など、このスタイルで成功した作品は少なくない。このスタイルでは、作者が小説世界のすべてをコントロールできるだけに、都合のよい設定を行いやすい。だが、裏を返せばすべてをきちんとコントロールできなければ、物語がとことん薄っぺらなものになってしまうという。どんな舞台なのか、なぜ人々はそこに集められているのか、その人々は何を思い、なぜそのように動くのか。今回の応募作では、そうした面が不十分なままに、自分の設定した自分に都合のよい作中の事実だけを利用して、“一見サスペンスに満ちた”物語に仕上げている作品が目に付いたのだ。自分が何に挑んでいるのか、もう一度見つめ直してみると、弱点にも気付けるだろう。その世界のなかでの冒険はそれなりに愉しく読める作品が少なくなかっただけに、もったいなく思う。
 また、着想を小説として丹念に磨き上げるでもなく、あるいは時代を切り開こうとする野心も感じられず、ただ単に書き上げましたというだけの作品も少なからず存在した。御自身の作品である。もっと愛着を持って欲しい。書き上げたことで満足せず、読者という視点で過去の受賞作と自作を読み比べて、劣っていると思う部分があれば、徹底的に直して欲しいのだ。それこそが自分の作品への――自分の子供への――愛である。
 という総論に続いて、「次回作に期待」だ。
 まずは、りきまる写真館の『夏の犬』。大学生と白犬の旅路を描いた1作で、語り口も展開にも好感が持てた。だが、その長所とプロットにズレがあり、結果的に濁りが残るかたちとなってしまった。この作品からは、プロットに凝るよりも、長所を活かした方が魅力的な作品への近道ではないかと感じた。そうなるとミステリと呼びにくくなるのが、この章という観点では問題なのだが。
『秘密の景色』は、北海道のある山中に建つ奇妙な館での殺人事件を描いた謎解きミステリだ。いかにもな雰囲気をきっちりと漂わせつつ、落ち着いた筆致で事件を描き、推理を描き、結末まで愉しませてくれた。だが、その結末付近で明らかになるのだが、このミステリを支えるある“錯覚”(犯人が仕掛けたものだ)が、ある有名な先例と重なっているのである。偶然かもしれないが、こうした本格ミステリの場合、残念ながらそれは致命傷となる。とはいえ、それはこの作品だけのこと。自分でこのアイディアを思い付き、それをきっちりとかたちに仕上げたのだと考えると、実力はたしかなのだろう。次回応募時には、自分で読書を重ねるなり、本格ミステリに詳しい知人に読んでもらうなりして、こうした事故のないようにして戴ければと思う。
 今回の「次回作に期待」は、以上2作品。お二方が、どのようなかたちで次の一歩を踏み出すか、たのしみにしている。

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