第11回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋氏コメント

『放課後のマスカレード』出島武揚
『今宵は、あなたとババぬきを』檜垣信介
『爆走』鈴森孝介
『ななしのふたり』けんたくし

杉江松恋コメント

 毎年の『このミステリーがすごい!』大賞選考を楽しみにしています。この賞では減点方式ではなく、純粋に「小説としておもしろかったかどうか」のみという観点から応募作を選ぶことが許されると感じているからです。その作品ならではの独自のアイディアが詰めこまれたものには毎回蒙を啓かれる思いがしますし、溢れる創作意欲を押し留められずに文字を紙上へとほとばしらせたような熱気ある作品を見ると、微笑ましい気持ちになります。どうか応募者の方は、そうした稚気を失わず、自身のお好きなものを書き続けてください。そうした放埓を受け止める度量を備えた新人賞であれ、またそうした選考委員であれかしと私は願っております。みなさま、どうか小さくまとまることの無きよう。
 とはいえ、小説は技巧の産物でありますから、人に読ませるための文章の鍛錬は必要です。今回私が通過作とした作品とそうしなかった作品の差異はそこにあります。思いつきはおもしろいが、これを自分以外の誰かに読ませたいかといえば否である――そう言わざるをえない作品が、今年もいくつかありました。
『放課後のマスカレード』……アクション小説。学園小説と格闘小説を融合させようとした企図は買いますが、それにしても羊頭狗肉。マスクをかぶった教師が赴任してきたとしたら、校長は、教育委員会は、その存在を許すでしょうか。そうした細部がすべておろそかにされています。読者に供するには絶対的にリアリティが欠如しているのです。格闘場面もそうで、エロやグロなどの刺激に頼りすぎです。この小説は、まったく死人が出ない形に書き換えることだって可能なはずです。刺激に慣れて感覚が麻痺していることに作者は気づくべきです。
『今宵は、あなたとババぬきを』……いわゆるデスゲーム小説です。しかし、作者の意図とは別に現在ではありふれた題材ですし、『このミステリーがすごい!』大賞にはすでに上甲宣之という先人もいます。ゆえにそれだけでは評価できない。第一、閉鎖空間でのゲームは嫌でもサスペンスを出しやすい題材であるのに、べったりとして盛り上がりが薄い。題材に甘えず、読者の感情を操るためにはどういう文章を書けばいいのか、という問いをこの作者は自身に発してみる必要があります。
『爆走』……マラソン大会と劇場型犯罪を組み合わせた着想はおもしろい作品でしたが、題材の奇矯さに甘えて、現場で醸し出されているはずのサスペンス、虫けらのように扱われる被害者たちの悲哀など、小説を読んでいて「おいしい」と感じる部分が薄味になってしまいました。作者は自分の文章に淫しています。自分の書きたいものを書くのではなく、読者に与えるべき情報を文章として表すという発想の転換がない限り、これ以上の成長はこの人にはないでしょう。
『ななしのふたり』……悩んだ末に「否」の判断をしました。ストーリーではなく構成で独自性を出そうとした作品です。並列で語られるエピソードはそれぞれがおもしろいものでした。しかし一つの長篇として読んだときに、この構成が効果を上げているかといえばそうではない。既存作家ならばそれも許されるでしょうが、無名の新人の作品としてはこの欠点は致命的だろうと考えました。もう一押しが望まれる作品です。

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