第11回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『壊れたかもしれないこの空は』龜野仁
『今夜は眠れない』瀬川翔

古山裕樹コメント

応募作品を読んでいてたまに思うのが、「この作者の方は、どのくらい他の小説を読むのかな?」ということです。正直なところ、過去に刊行された作品の水準を把握していたら、何か直してから応募したのではないか、と思える作品が少なくありません。
 できあがった作品を、すでに世に出ている他の小説と読み比べて、自作の弱点を見つけたら直す。そんな手間をかけたほうが、より強力な作品に仕上がるのではないでしょうか。もちろん、ご自身の愛着のある作品を、第三者の視点で見るのは難しいでしょう。でも、自分が書いたものを他の人にも読んでもらおうと考えた時点で、他人の作品との比較は避けられません(言うまでもなく、選考とは応募作品どうしの比較です)。
 今回、残念ながら1次選考通過には至らなかったものの、そうした手続きを経ていることがうかがえる作品がいくつかありました。中でも、1次通過とするかどうか迷ったのがこの2作です。
 龜野仁『壊れたかもしれないこの空は』は、日米開戦前夜のアメリカを舞台に、日系人社会で起きた事件を描く私立探偵小説。このシチュエーションを描くだけでもかなり苦労されたのではないでしょうか。主人公の日系人探偵と徐々に親しくなる白人刑事の造形も悪くありません。が、惜しかったのは物語の構成。社長夫人の殺人をめぐる部分と、日系人資産をめぐる暗闘の部分とが断絶していました。二つをうまく連携させようと工夫されていたのは確かです。しかし、移民家族の悲劇と、マフィア相手の死闘とのギャップは大きく、その溝を埋めつくしきれていなかったように思います。
 瀬川翔『今夜は眠れない』は、多数の登場人物を動かしながら、破綻もなく丁寧に組み立てられたサスペンス。入り組んだ人物関係を、混乱なしに描いてみせたところは素晴らしいです。ただし残念だったのが、事態の解決が、主人公の行動や思索によるものではなく、幸運がもたらしたものに見えてしまうところ。主人公が手がかりに恵まれていて、ひどい失敗もしていません。読者には早い段階で敵の姿が示されているので、何も気づいていない主人公のうかつな行動に苛立つ場面がもっとあってもよかったのでは。さらに欲を言えば、事態収拾まであと一歩となったところで、あと2回くらい絶望の底に投げ込んでほしかったです。ページも残りわずかなのに、このままだと敵役の企みが成功しちゃうよ大丈夫なの? というあの心配を、もっとギリギリまで味わいたかったです。
 上記2作とも、1次通過とはしませんでした。でも、また機会があれば、ぜひ同じ方の別の作品を読みたいです。再度のチャレンジをお待ちしております。

通過作品一覧に戻る