第11回『このミス』大賞 次回作に期待 土屋文平氏コメント

『ボクのさいごの飼い主』向芝園也
『路上にはじまるミステリー』丸石俊太
『闇を切り裂くエメラルドの輝き』真名見洋介
『エクスペンダブルズ』海原ケイン
『カピテンユゲの星の時間』宮代匠
『文目』森岡伸介

土屋文平コメント

 向芝園也『ボクのさいごの飼い主』は誘拐事件に球場でのオランウータンによる4番打者殺人事件とにぎやかなアイデアに、途中から迷宮入り事件を扱うひまなキャリア警察官が探偵役となって、いったん収まった事件を洗いなおして真相に辿りつくというもので、盛り込んであるテーマと語り口とのチグハグさで、今ひとつ楽しめなかった。ずいぶんと練った筋立てなので、それに見合った文章を考えていただきたい。
 丸石俊太『路上に始まるミステリー』は毎週月曜日に祖母の見舞いに病院へ行くのんびりした休職中のサラリーマンが、迷惑刑事やデタラメ私立探偵と地球滅亡計画と戦うというばかばかしさを狙った作品。月曜、がポイントになっているのは「少年ジャンプ」の「こち亀」へのオマージュらしくて、笑えるギャグはなくともイヤミもなくて、これはこれでアリと思わせるだけのディテールの丁寧な書き込みがあった。人とはトーンの違う物語を作ろうという意気込みも良い。次はまじめなものも読ませてほしいと期待してます。
 真名見洋介『闇を切り裂くエメラルドの輝き』は理科系大学院生たちの実験と発表に追われる生態が興味深く描かれていて、犯人の意外性もあり、緻密な作品だった。そのぶん研究室に舞台が限られていて、小説の広がりが少なく爆発事件などもいまひとつ他人事のように読めてしまう。別な世界の脇役も登場させてほしかった。
 海原ケイン『エクスペンダブルズ』は元傭兵が日本で身元を偽って地味な漢方薬輸入会社に勤めていると、過去を知っている敵が現れてドンパチが始まる、派手なような企業小説のような不思議感があった。テンポは良くて、ヒーローを新しく作り上げたのもお手柄と思う。傭兵時代に砂漠での戦闘中に握った軍事秘密が明かされるあたりも迫力がある。ただ日本を舞台にすると、どうしても嘘っぽくなるのが惜しい。
 他にも宮代匠『カピテンユゲの星の時間』は戦争中のドイツの生活のディテールに舌を巻いたし、森岡伸介『文目』の公安スパイの生態は説得力があって、どちらも小説の完成度は高いので、古臭くない題材でまた取り組んでみてほしい。

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