第11 回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント

『唐突で完璧な名も無き誘拐』影山さじ
『ジーンズ・ハンター』中村尊志
『しらみみ村の郵便配達』堀有光
『私のストークする恋人』伊原鶫

膳所善造コメント

 1次を通過出来るか否か、それは突き詰めて言えば推敲の回数にかかっていると言って良いでしょう。取りあえず書き上げるだけで精一杯、思いつくままに書きたいことを全て書いた、そんな作品はまず1次突破するとこはありません。
 作品を書き終えたら、まずは複数の人に読んで貰ってください。その上で忌憚ない意見にへこたれることなく改稿に改稿を重ねて下さい。そしてムダな部分を全て削ぎ落として、引き締まった筋肉質の小説に仕上げる。そうして初めてスタートラインに立てるのです。
 次回から応募規定が変わり原稿の上限が400字詰めで650枚となります。応募される方は、なぜ上限が下がったのかよく考えてみてください。枚数厳守の但し書きは伊達ではありません。
 もう一つ気になった点を上げておきます。それは流行物を追うな、ということです。具体的に言うと、数年前によく見られたのが“伊坂幸太郎のようなもの”でした。ここ数年、はぐれ者の刑事が孤軍奮闘する“警察小説っぽいもの”が散見されます。そして今回、特に目についたのが“『ジェノサイド』みたいなもの”でした。二番煎じ三番煎じで取れるほど本賞は甘くありません。ぜひオリジナリティを感じさせる作品で臨んでください。
 さて、今回1次通過には至らなかったものの、光るところのあった作品を挙げておきます。
 影山さじ『唐突で完璧な名も無き誘拐』は、2億円の当たりくじを巡って小さな町工場の従業員が互いに相手を出し抜こうとする様を描いた犯罪小説です。キャラクターや舞台設定、核となる事件のいずれも1次の水準をクリアしていますが、視点となる主人公の内面描写で読者に対してアンフェアな書き方がされている点が致命的です。加えてプロットが整理し切れていないため物語が間延びしてしまいました。
 中村尊志『ジーンズ・ハンター』。ヴィンテージ・ジーンズの世界を舞台に、急死した祖父が残したお宝を探す物語ですが、ジーンズにまつわる蘊蓄が長すぎます。主人公であるはずの孫娘のキャラクターがまったく立っていないのも致命的。このネタは短篇できりっと書いた方が生きてきます。
 堀有光『しらみみ村の郵便配達』には、独自の世界を描きたいという意志を感じました。謎解きミステリに対する関心の高さも随所にうかがえ、やりたいことは伝わってくるのですが、流石にこの真相は無理筋です。三代目・紫式部を名乗る名探偵役の立ち位置や、真相解明シーンも明らかに説明不足。ミステリに対するセンスは感じられましたので捲土重来を期待します。
 伊原鶫『私のストークする恋人』。前回一次選考を通過した際に、乱暴すぎるところもあるが読者を楽しませようと次々に仕掛けを繰り出す姿勢を評価されていましたが、今回はそうした特長が裏目に出たと感じました。主人公の女子大生、彼女が一目惚れする危ない刑事、主人公をストークする美青年。誰も彼もが味付けが濃すぎる上にオーバーアクション、さらに話の展開が強引なので、作品世界に引き込まれるよりもむしろ引いてしまいました。文章力はあるので、エンターテインメントにおけるサービス精神のさじ加減について、一度じっくりと考えてみると良いと思います。

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