第11回『このミス』大賞 次回作に期待 宇田川拓也氏コメント

『ドラゴンズ・ルビー』黒葉雅人
『外様旗本』徐正基

宇田川拓也コメント

 今回は読めば読むほど冷や汗がたらりたらりと流れてくる、そんな選考だった。
というのも、2次に推せるほどの作品がとにかく出てこない。しかも、論文をそのまま送りつけてきたり、どうやら以前投稿されたらしい作品との関連を匂わせてみたり、この作品が世に出るといかに凄いことになるかが無邪気に綴ってあったりと、頭を抱えることしばしば。残り5作……3作……となり、本気で「全滅」を覚悟したが、最後の最後にギリギリ及第点の作品に出会え、どうにかことなきを得ることができた。こういうこともあるのですねえ、勉強になりました。
さて、“次回作に期待”。
『ドラゴンズ・ルビー』黒葉雅人は、ある豪邸に眠る世界最高級クラスの大粒ルビーを狙う窃盗団「ドラゴンズ・アイ」メンバーの騙し合いを描いた軽妙なクライム・サスペンス。冒頭に寓話を持ってきて物語を暗示したり、窃盗団の会話のみで豪邸への侵入直前の状況を描いたりと、全体に凝った作りが印象的だが、それらがどうにもぎくしゃくして上手く機能しておらず、一行改文も平板に感じられるばかりで、残念ながら特別な効果を生むまでには至っていない。スタイリッシュにまとめようとし過ぎたばかりに、全体が型崩れしてしまった――そんなもったいなさが否めないのだ。せっかく筆力をお持ちなのだから、気をてらわず、もっとまっすぐに読者をもてなしてもいいと思うのだが? スタイルに縛られない、伸びやかに筆を揮う黒葉雅人なら、いったいどんなエンターテインメントを紡ぐのか、とても興味があります。次回作では、ぜひ型破りな面白さを目指していただきたいです! 待ってます!!
『外様旗本』徐正基は、幕閣の争いに巻き込まれた外様旗本の四男が剣客を目指し、「武術を極めることこそ我が天命」と決意するまでを描いた時代小説。もし本賞が、「この書き下ろし時代小説がすごい!」大賞なら、きっと最終候補にも残ったに違いない。大変筆力もあり、店頭に並んでいるそれらと比べても遜色のないレベルである。しかし、あまりにも従来の書き下ろし時代小説の型にぴたりとはまっており、どうにも新味に欠け、意外性に乏しい。数ある新人賞のなかから『このミステリーがすごい!』大賞を選びながら、この作品を投じてしまったのは戦略ミスといわざるを得ない。たとえば、ケイパー(強奪)ノベルとして秀逸な片倉出雲〈勝負鷹〉シリーズ(光文社文庫)や、本格ミステリーとしても読ませる翔田寛〈やわら侍・竜巻誠十郎〉シリーズ&『忍者侍☆らいぞう 魚売りの初恋に肩入れする』(ともに小学館文庫)のように、ミステリーファンが「おっ!」と感心する魅力を盛り込んだ書き下ろし時代小説もあるわけで、その点をご一考いただき、再度の挑戦を心よりお待ちしております!
最後に、次回ご応募をお考えのみなさまへ。
お近くに本屋のない地域の方もいらっしゃるとは思うが、ご応募の前にはぜひ売り場に足をお運びください。そして、新刊コーナーから単行本を一冊お求めいただきたい。なぜなら、わざわざ時間を掛けて足を運び、1000円以上のお金を払って小説を購入するということを、改めて体験していただきたいのだ。さて、そうして時間とお金を掛けて購入した本をいざ開いてみたら……想像してみて欲しい。もし、いきなり作者の自慢話が延々と続いていたらどんな気持ちになるだろう? また、改行しているのに一字下げが成されておらず誤字脱字だらけのページだったらガッカリを通り越して怒りすら覚えまいか? ご都合主義な展開やありがちなオチだったら「小説なんてこんなものか」と失望して、当分手に取る気も起きなくなるのではないか? あなたがこれから投じようとする作品は、これらと同じ過ちを犯していないか、よくよく確認していただきたい。と同時に、身銭を切って本を買い、時間を掛けて読んでくれるひとびとを自分の作品は裏切っていないかを、よく考えていただきたい。本屋の店員からの切なる願いです。
「書店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」
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