第11回『このミス』大賞 1次通過作品 皇帝の乱 -古島市選管、奮闘す

立候補者数が定員と同数の島に移り、立候補した「皇帝」。
選挙管理委員会や役場の面々は、選挙戦や投票、開票と
不測の事態に振り回される!

『皇帝の乱 -古島市選管、奮闘す』 霧沢史也

 ちいさなコミュニティに異邦人が訪れ、そのコミュニティを引っかき回していく物語である。
 伊豆諸島の一角の島。市議会議員選挙があっても、定員とちょうど同じ人数が立候補し、皆円く収まるというそういうコミュニティだった。だが、その年の選挙は違った。定数より立候補者が一人多かったのだ。その予定外の一人こそ、櫛山英作である。彼が立候補した結果、過去40年間無投票だった市議選において、投票が行われることとなったのである。この島の予定調和を乱した櫛山はしかも、地元を想って立ち上がったというような候補ではなかった。何を狙ってか、他の地域からここに移ってきて、そして立候補したのである。しかも、“皇帝”を名乗って。
 この自称皇帝、何を企んでいるのかは判らないが、それなりに知恵が回る人物である。それ故に、不測の事態に慣れていない選挙管理委員会をはじめとする村役場の面々は右往左往してしまう。こうした様子を読者に伝えるに際して、著者は、自称皇帝に焦点をあてるのではなく、彼に振り回される面々を描くという手法を用いた。その結果、読者も役場同様、振り回されることになる。その展開が先を読ませずにスリリングでよい。選挙戦、開票、その後の争いなどと、いくつもの山場が用意されているプロットもなかなかに巧みだ。そして結末がよい。人によっては、ポカンとしてしまうかもしれない。脱力系といえばそうなのだが、それまでの視点の誘導の仕方の延長線上にあり、そのポカンが快感になるのである。また、コミュニティを引っかき回す異邦人という冒頭からの設定がぶれずに結末まで到達しているという観点でも、納得の結末である。
 問題は、ミステリ色の薄さだろう。この手の異邦人ものでは、例えばヒュー・ウォルポール「銀の仮面」やハリー・クレッシング「料理人」といった輝ける先達が存在しており、それらが持つミステリ色(これは狭義の謎解きといった色ではない)と比べると、やはり謎めいた空気でも不気味さでも薄いのだ。それでも2次に諮ってみたいと思わせるに十分な魅力は備えていた。

(村上貴史)

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