第11回『このミス』大賞 1次通過作品 婚活島戦記
青年社長の妻の座を奪取すべく開かれた、
花嫁最終候補による四日間のバトル。
元挌闘家のヒロインを中心に、彼女達の過去が明かされて……
『婚活島戦記』 柊サナカ
全体的に作り物っぽさが抜け切れていないのは確かだ。美形にして莫大な財産の持ち主という青年社長の造形からしてそうだし、その妻の座を一般公募で決めるという設定もそうだし、最終的には孤島に集められた“花嫁”の最終候補たちによる4日間のバトルで決着させるという展開もそうだ。つまり、あらすじだけを抽出してみると、新鮮味に欠ける作品なのである。
だがどうして、読んでみると引き込まれるのだ。花嫁の最終候補たちは――それなりの人数が脱落した後のことだが――それぞれに個性的である。特に巨体の戦闘マシーン的なヒロインがよい。元格闘家の彼女が、花嫁選びなどという枠組みにはまるでそぐわないかたちではあるが、自分のペースで生き抜いていく様が心地よい。その彼女を中心に、他の花嫁候補たちの過去が次第に明かされていくのだが、そこもまた興味深く読ませてくれる。生き抜くために彼女たちがとる行動も、それぞれの経験に根ざしていてよい。
という具合に紹介すればわかるだろうが、この作品の魅力は、サバイバルゲームという枠組みにあるのではない。ゲームのルールの新奇性やルールを活かしたサプライズで勝負するのではなく(そっちの面は正直いって相当弱いし、設定を活かしきれてもいない)、ヒロインたちがこれまで過ごしてきた時間のぶつかり合いをきっちりと描いた点にあるのだ。例えばルールの説明などはきわめてあっさりと片付けている。こうしたバランス感覚があるが故に、この作品は読みやすいのだろう。この種の作品にありがちな過度に衝撃的な(言い換えればグロテスクなだけの)描写がない点にも好感が持てる。
なお、結末付近では、読者に伝えるべき事項の分量が多いにもかかわらず、頁数はそれほど費やしていない。頁のバランスからいえばこれが正解だろうが、だからこそ、伝え方はもう少し磨いて欲しかったとも思う。そうした小さなキズはあるが、全体としては十二分に愉しく読めた。躊躇なく2次に推す。
(村上貴史)