第11回『このミス』大賞 1次通過作品 日本発狂

認知症を悪化させるウィルスが流出し、
首都圏の老人たちが暴れ始めた!
珍妙なバイオハザードを描く異色作

『日本発狂』 学文路譲

 既存のジャンルと奇抜な見せ方の組み合わせは、インパクトを生み出す有力な技法にほかならない。本作はその成功例と言えるだろう。
 201X年夏、群馬県の書店で小さな事件が起きた。戦時中と勘違いした元特高警察の老人が『蟹工船』の並ぶ書店で暴れ出したのだ。いっぽうその頃、日本に存在しないはずの蚊が首都圏全域で発見され、高崎医大の“ゴキブリ先生”こと興梠治は政府の対策チームに招かれていた。隠蔽を察した興梠は独自の調査を続け、思いがけない真相――認知症対策用に創られたウィルスの失敗作が蚊によって流出し、老人たちの脳を狂わせていたことを突き止める。対策チームは政府の尻拭い部隊だったのである。
 単純に“パンデミックを扱ったバイオハザードもの”と分類すれば凡庸に聞こえるが、蚊の繁殖を妨げる戦いを軸にしながらも、異様な人々――灯火管制を守れと怒る元憲兵、満州の経験をもとに火炎瓶を投げる元軍人などを描くことで、本作ではオリジナリティの高いパニックが演じられている。こんな光景はそう見られるものではない。
 勧善懲悪に収束するプロットには安易な感もあるが、これは解りやすさを優先した結果と見るべきか。全篇がナンセンスの彩りを纏っている以上、賛否が割れそうなオチは肯定的に捉えておきたい。手塚治虫の怪奇漫画と同じタイトルについては、内容を想像しやすいものに変えるのも一計だろう。

(福井健太)

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