第11回『このミス』大賞 1次通過作品 石の来歴

祖母の奇妙な遺言を托された少年は、石コレクターの老人に出逢い、
生物教師とともに謎めいた世界に惹かれていく。
石をモチーフにした穏やかな幻想譚

『石の来歴』 深津十一

 自分が死んだら遺体の口に石を入れ、火葬後にそれを回収し、ある人物に届けて欲しい――祖母の頼みを引き受けた高校生の「僕」こと木島耕作は、届け先で風変わりな老人・林に出逢う。石のコレクターである林は“死人石”に喜ぶものの、祖母のことは記憶に無いという。その話に興味を抱いた生物教師のナオミは、耕作とともに林を訪ね、かつて見た“童石”の捜索を依頼する。林はそれを快諾し、石を集めて割ることが林家当主の義務だと語るのだった。
 石をモチーフにした静かな幻想譚である。見ようによっては地味とも言えるが、派手な事件や小道具に頼ることなく、読者に近い視点の人々を配し、その驚きと感銘を伝える筆致は確かな力量を感じさせる。少年の語り口は読みやすく、高踏的な間口の狭さとはまったく無縁なものだ。最初のきっかけとなる“林と祖母の過去”を――ファンタジーとは別の切り口から――明かして幕を下ろす構成も高く評価したい。
 しかし弱点も無くはない。とりわけ惜しまれるのが、幻想の核を成す“童石”の由来と性質が凡庸に映ることだ(神話やゲームを連想する人もいるだろう)。堅実さが持ち味ではあるにせよ、より大胆な奇想で“封じられたもの”を彩る演出は無かったものか。とはいえ全体的には良質のテキストであり、1次選考は軽々とクリアである。

(福井健太)

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