第11回『このミス』大賞 1次通過作品 わが母のおしえ給いし歌

北陸の中学校で起きる女教師殺人。
アスペルガー発達障害の富豪記者が事件を追う。
主人公が犯人に疑うのは、殺された教師の子どもで……

『わが母のおしえ給いし歌』 斉藤操

 北陸の中学校が舞台。2年生のいる階で、5つのクラスのそれぞれの違いが描かれる。3組担任の深山響子が土曜日の部活で登校したボヤキは実感がある。公園で2年2組の担任秋山絵美子が刃物で24箇所も刺されて殺されているのが発見される。事件の様子は地元新聞の先輩記者と東大出の若手記者剣崎との会話で進められる。地元新聞の強みで二人の記者は校長や生徒の取材に取りかかる。剣崎は深山がいい生徒と認めている雨宮のケンカのことも持ち出して、深山を怒らせる。生徒の動揺を防ぐために家庭訪問という余分な仕事もできて、ますます深山は腹をたてる。雨宮の父子家庭を訪問しているときに剣崎が現れる。このあたり殺人事件の緊迫感はまるでなくて、ただただ愚痴っぽい女教師のリアルさだけである。
 剣崎が英国製高級車で強引に深山を生徒の家に送っていくあたりから、剣崎の推理が明かされ、次の被害者が出るだろうという予告で、やっと探偵役が誰かがわかり、ミステリーらしくなってくる。学校でまた女教師が殺害されて、発見したのは深山だった。剣崎は深山の身も危ない、と執事に世話される豪華マンションに深山を連れてくる。ここでやっと剣崎が他人の気持ちに関心が持てないアスペルガー発達障害だと明かされる。剣崎が犯人の可能性があると疑っているのは、深山が指導している合唱部部長の長谷川と雨宮だった。雨宮は殺された秋山の子供だという。別の町で離婚して捨てたのだった。最後は長谷川の意外な過去と実像が明らかになり、対決となる。
 暗い背景とトボケタ若い記者とのバランスで、計算された効果が出ている。単純におもしろいというよりも、なんだか変なものを読んでしまったなあ、という印象が強いのに、捨てがたい気になるのは、教育界のリアルさとトンデモ記者の組み合わせが新鮮に感じられたためです。

(土屋文平)

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