第11回『このミス』大賞 1次通過作品 パーフェクト・ワールド

政府の電子通貨システム構築に携わる、ネットワークエンジニアの村木。
首相が視察に来てから、不正アクセスの警報が鳴り続け、
天才エンジニア豊田が失踪――。ノリがいい近未来、経済ミステリー

『パーフェクト・ワールド』 迫丸零時

 3年前に突然、新党を立ち上げて国会議員になった館井は、総理大臣となり、日本の通貨を廃止させて全ての金銭授受に生体認証が義務付けされることになる。同時に、使った金額だけ減税される「累進課税制度」が始まるという構想で社会は騒然となっている。
 ネットワークエンジニアの主人公村木は、出向した政府の特務機関で電子通貨の基幹システム構築に携わる。不正アクセスを防ぐために独自のプログラム言語が必要だからだ。システムは天才技術者豊田がひとりで手がけていた。財務省の官僚飯島の監視の下、理解を超えるプログラミングにお手上げだった村木も、突然目覚めたかのように技術を習得し、作業に参加する。完成した後、3人は保全部門にそのまま残り、経済産業省の女性技官島本と警察庁の立花が加わる。 
 まるでカタイ設定なのに、読みやすいのは豊田の人物造形が変わっているから。開発室で立ったまま爆音で流れるハイテンポなエレクトロ・ハウス・ミュージックを流して作業する髪と髭を伸ばしっぱなしの男なのだ。そして村木が豊田を理解できるようになる過程は武術の悟りのようで面白い。ある日館井首相が視察に来てから、不正アクセスの警報が鳴り続けて豊田が失踪する。ここから陰謀と対決の山場までがサスペンスらしいところで、天才ハッカーも登場して、豊田と島本の過去のいきさつや首相の謎だった背景も明らかとなる。
 軽い文章と国家的陰謀のそぐわなさが解消されれば、もっと読み応えが出たと思われる。豊田と島本の過去の関係など、小出しに出てくる謎の解明はほどが良くて印象は悪くない。なにより、お札も硬貨もない時代、を想像させてくれるアイデアのオリジナルさは評価すべきだと思われた。

(土屋文平)

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