第11回『このミス』大賞 1次通過作品 或る秘密結社の話

平凡な失業者が雇われたのは
奇妙な癖のある人物ばかりの謎の会社。
誘拐事件にヤクザ、政治家が絡んで、大騒動に

『或る秘密結社の話』 新藤卓広

 主人公青野恵介は雨も降っていないのに傘をさして歩く仕事をしている。毎日、パソコンのメールの指示で、わけのわからないことをさせられる日々だ。並行して誘拐犯の様子が描かれる。青野が失業してこの会社に入る理由や奇癖の持ち主ばかりの社内の導入部は期待を持たせる。例えば仕事の説明をしてくれた美女は、なんでも思ったことを口に出してしまうから会社をクビになったというし、次に現れた社員は、面倒くさい軽薄おやじで格闘技のプロでもある。もうひとりの男は謎の美男子。 
 青野はというと、気になることがあると調べずにはいられない性癖で、ついストーカーと誤解されてクビになったのだった。その糾弾した元の同僚女性からは、呼び出されてまた非難される。そこで誤解を解くために、本当のストーカーを一緒に探すこととなる。次に現れるのは電機メーカーのエリートで出世のためにヤクザとつきあっている。他にもゲーム屋のしがないバイト、ピッキングが趣味の小学生など、小説全体の三分の一になっても、全くどこへ話が進もうとしているのか、わけがわからない。
 少しずつ多彩な登場人物たちに接点ができていき、それぞれに裏の事情や正体があって、ヤクザの銃撃やアクションシーンで派手さを増す。最後まで力技で、いくらなんでも強引すぎる印象はある。
 ここまでやるかミステリー、とでも呼べばいいのか。偶然を多用しないと、結びつけるのがむずかしくなるから都合よくなったところはあり、小さな世界からドタバタへ移る切り替えがスムースにいきにくいところもある。
 ただ、いちばん好感が持てたのは、この若い人はやりたいことをやりきったんだろうなと思わせるところと、落ち着いた語り口でした。

(土屋文平)

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