第11回『このミス』大賞 1次通過作品 重力のナイフ

人気アイドルの作詞に盗作疑惑がかけられた。
元記者の有賀は、彼女の汚名を晴らす手伝いをすることに決めた。
調査を進めるうち、「消しゴム屋」なる存在を思い出し――

『重力のナイフ』 小西未来

 有賀武史は、今でこそマイナー雑誌「モダンタイムズ」の編集長だが、かつては食品業界と厚生省が起こした事件を暴き出したやり手の新聞記者だった。そんな彼のところへ取材要請をしてきたのは、現在身を隠している最中の人気アイドル・堺カイリだった。最近カイリは作詞をしたのだが、その内容が「あさねぼう」という過去の無名バンドのものと酷似しているとネットで指摘されて大騒ぎになり、活動休止していたのだ。
 カイリは、潔白を証明するために取材をして欲しいと頼んできたのだ。危機状態にある雑誌を立て直すため、有賀にとってチャンスだった。だが芸能ネタを扱うのは、プライドゆえに躊躇われた。
 しかし有賀の学生時代からの親友で政治家をしている半沢俊夫が自殺したことをきっかけに「言い分を聞いてもらえないことの悔しさ」を考え、有賀はカイリの取材を引き受けることにする。
 しかし有賀が調査を進めるにつれ、ますます疑惑は大きくなる。そのうち彼は、半沢から聞いた「消しゴム屋」なる存在のことを思い出す。
 カイリは果たして潔白なのか。やがて、すべての真相が明らかになっていく。そしてその時、何が起きるのか……。
 これはいわゆる陰謀物なのかと思って読んでいると、だんだん実はSFなのだと判ってくる(もっとも、プロローグ部分にそれっぽいことは書かれているので、ここで「SFだ」と書いてもネタバレではなかろう)。そこの流れ具合が「なあんだ、SFか」ではなく「おっ、やっぱりSFだったのか」という按配で、読んでいて気持ちよい。途中、どちらに着地するのか分からない感覚も楽しめる。
 時々、視点がいきなりブレることがあり、読んでいて気になったがこれはその部分の書き方を変えれば改善されるだろう。また全体的なバランスを考えると、少し刈り込んでもいいかもしれない。
 あと終盤、ちょっと判りにくいところがあるので、これもちょっと修正が必要では、と思われた。しかしそれらを勘案しても、十二分に1次選考をクリアする実力の持ち主だ。作者は映画ライターや翻訳をしている方だという。ならばその実力も納得である。

(北原尚彦)

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