第11回『このミス』大賞 1次通過作品 星屑のパリ

パリ・セーヌ川で相次いで発見される、不可解な水死体。
奇怪な依頼を受けた私立探偵TKOとCIA工作員・シャロンは
捜査を進めるが、脳科学研究所での検査を義務づけられ……

『星屑のパリ』 西山裕彦

 これは奇怪な小説だ。おそらく2次以降で、一部の選考委員からは忌避されるのではないかとも思う。それを承知で、この才能を世に出す価値はないかと問うてみたいと思う。
 パリ・セーヌ川で男の水死体が相次いで発見されるところから物語は始まる。死蝋化の進んだその死体には、なんらかの生体実験を施された形跡があった。かつ、その背中にはセックスの最中についたものと思われる爪痕があり、死に顔は極めて幸福そうな笑みを浮かべていた。この死体の謎のほかにも、序盤にはいくつかの不可解な断片が散りばめられる。私立探偵TKOへの奇怪な依頼もその一つだ。TKOは本名を鬼方多生男といい、東京からわざわざフランスへと呼び寄せられたのだ。もう一人、シャロン・シャノンというCIA工作員とともにTKOは依頼の内容を聞かされる。とある映像に記録された老人の居所を捜し当てること。だが、捜査と並行して、脳科学研究所で定期的な検査を受けるという義務が二人には課せられるのだ。
 典型的な私立探偵小説のプロットを骨組みとして用いながらも、作者は初めから、肉付けとして用いる部品が一般的な小説ではあまり使われないものであることを隠そうとしていない。その不穏な気配がある形に結集し、それまで読者が感じてきた違和には理由があったことが明かされるのが後半の目玉である。小説は一気に変貌する。それまでよりもさらに不安な感情を掻き立てるような展開が始まるので、読者は唖然とさせられるはずである。よくこういうことを考えたなあ、と微笑ましく感じながら読み終えた。
 文章は達者だが、はっきり言ってしまえば自己陶酔の度合いが強く、読者を選ぶタイプのものである。とっつきにくい印象を与えるほどに見かけは錯綜しているが、読み始めてしまえば主筋が強固で、道を踏み誤る心配はない。要するに、あと少し親切に手を加えればさらに「エンターテインメント」に近づく作品なのだ。だが、このままでいい。このままの形で精錬されていってもらいたいと思う。私はこの作者に期待する。

(杉江松恋)

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