第11回『このミス』大賞 1次通過作品 梓弓
事故で亡くなった娘・梓に浮上した援助交際の疑惑。
母親の浩美は、自分の知らなかった娘の姿を追い求めつつ、
梓を主人公にした小説を書き始める――
『梓弓』 堂島巡
推薦コメントの冒頭にこう書いてしまうのもなんだけど、地味な作品である。
主人公の浩美は、精神科医にして作家の夫と、一人娘の梓と三人で暮らしていた。だが、梓は交通事故で亡くなってしまった。編集者の言葉をヒントに、浩美は亡き娘を主人公にした小説を書き始めたけれど、執筆に苦労する日々が続く。そんなある日、浩美は梓が援助交際していたらしいことを知る。ショックを受けた彼女は、梓の友人たちの伝手をたどって、自分の知らなかった梓の姿を追い求める。探求を進めた彼女は、亡き娘の友人だった麻衣の行方を捜索することに……。
亡き娘の秘密を探る一方で、浩美は試行錯誤しながら小説を書き続ける。作中では、彼女の探索に混じって、試行錯誤しながら書かれた原稿の一部が挿入されている。それは彼女の願望に基づいた娘の姿であり、また時には忌まわしい「事実」に基づいた描写のこともある。親の知らなかった娘の姿、あるいはその友人の姿を追い求めながら、彼女たちの登場する小説を書こうとする(時には、自分自身が主人公になることもある)。探索の過程もさることながら、それと並行して小説を書き続けるヒロインの姿がなかなかユニークである。
正直なところ、浩美が最後に探り当てる真実は、ミステリーとしてはそれほど強烈なものではない。だが、たとえ凡庸な秘密であったとしても、それを探り出す(そして小説を書く)主人公の姿は忘れがたい。小説という様式をうまく活かしている。ちなみに、ミステリーとしてはもう一つ、ささやかな驚きが仕掛けられている。作者の意図としてはこちらの仕掛けがメインのようだが、こいつがもたらす驚きはあくまで脇役。ふつうの主婦であるヒロインが、慣れない捜索と創作を同時進行させる物語として評価したい。
(古山裕樹)