第11回『このミス』大賞 1次通過作品 ポイズンガール
毒を仕掛け合うゲーム「ポイズンガール」にのめりこむ
女子校科学部のメンバーと、ひき逃げ事件を起こし逃亡する悟。
少女たちのもつ「歪み」が、ゲームを危険なものへ転じさせていく
『ポイズンガール』 藍沢砂糖
ずいぶんいびつな小説である。小説のいろんな要素を数値で評価してレーダーチャートを作ったら、これはきっとかなり偏った形になるに違いない。
ここに描かれるのは少女たちの殺し合いであり、そして殺人犯になってしまった男の逃亡と彷徨である。
ある女子校の科学部。理科準備室を掃除していた奈々瀬が見つけたのは、かつて先輩たちが楽しんでいたとおぼしきゲーム「ポイズンガール」のルールだった。互いに「毒」を仕掛け合うサバイバルゲーム。最初は食べ物にタバスコを仕掛ける程度だったのが、少女たちの奥底に秘められた思惑のせいもあり、徐々に過激なものになっていく。一方、轢き逃げ事件を起こしてしまった悟は、目撃して強請りに来たチンピラをも殺してしまう。平穏な生活から逃亡の日々へ。そこで出会ったのは、一人の少女だった……。
逃亡する男のエピソードも組み込まれているものの、物語の中心にあるのは題名のとおり、少女たちの興じる「ポイズンガール」だ。最初は他愛ない遊び。それが、各自の抱えた「歪み」のせいで変化して、やがてもっとも危険なゲームへと転じてしまう。そのエスカレーションの過程が実にスリリング。普通の高校生に見えた少女たちが、それぞれの危うさを表に出して、互いに毒を仕掛け合う。後半に繰り広げられる戦いを読んで、スタイルこそ全く異なるものの、山田風太郎描く忍者たちの死闘を連想した。
ただし、不穏な乙女たちの分泌する毒の鮮やかさに比べると、逃げる男の姿はずいぶん色褪せて見えてしまう。根底では常識人である彼がいるからこそ毒の存在が際立つのかもしれないが、この作品の弱みであることは否定できない。
危なっかしいところは少なくない。しかし同時に、尖った部分の輝きが眩しい作品でもある。
(古山裕樹)