第8回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

 今回、二重投稿によって2作が失格となった。二重投稿とは同じ時期に別々の賞に応募することをいう。たとえ応募時期や選考期間がずれていたとしても、片方の結果が出る前に応募すれば、資格を失うのは言うまでもない。同じ作品で異なる賞は受賞できないからである。これは大方の賞の応募規定に明記してあるはずだ。明らかなルール違反である。
 では、結果が判明した、すなわち落選した(1次であろうと、2次であろうと、最終であろうと)作品は、どうか。これはルール違反ではない。ルールには抵触しないが、マナーとしてはいかがなものか。選考する側にとって、一度目を通して反古にした使い回しほど、テンションが下がるものはない。

 私が把握しているだけでも、今回、一言いわずにはおれないほどの使い回しがあった。なかには某新人賞の予選で自分の箱から2次に上げ、最終まで残った応募作もある。しかもペンネームとタイトルが意図的に変更されているだけに、よけい萎えたものだ。

 使い回しで応募する側の気持も、まったく分からない訳ではない。1次で落ちた場合は通常、一人しか読んでないのだから、その選考委員の目が節穴だった可能性にかけてみたいという気持があるのだろう。あるいは、こうも考えられる。推敲が充分でなかったから落ちたのではないか。改稿し、作品をもっとブラッシュアップすれば受賞レベルに至るのではないか。最終までいって落ちたら、こういう考え方もあるかもしれない。賞の体質に合わなかったのでは。最終選考委員との相性が悪かったのかも。
 可能性が皆無とは言えないから、つい使い回してみたくなるのだろう。実際、そういう例もこれまで絶無ではない。
 しかし寡聞にして、使い回しで受賞し、その後大成した例を私は知らない。以前、別の選考委員も書いていたが、そんな時間と労力があるなら、新しい作品を一から書き上げた方が数段、身になると思うのだが。使い回して応募するより、晴れて受賞した暁に、存分に改稿して発表すればいいのである。
 前置きが長くなった。
 『許されし者たち』は普通なら最終に残ってしかるべき作品だ。リーダビリティに富んだホラーサスペンスで、描写力もあり、作品自体は過去のホラー大賞長編賞と比べてもさほど遜色があるとは思わない。通風の主人公のいたぶられ方が『ミザリー』タッチで実に読ませた。さすがはプロ作家の手によるだけのものはある。が、前回の2次選評で宣言したように、『このミス』大賞の2次選考においてプロはハンディキャップ制である。本賞の大賞を受賞するほどの強烈なインパクトが感じられない以上、最終に上げることはできない。
 次に面白く読めたのは『ライオントリオ』だ。語り口が心地よく、ユーモア精神も横溢している。ただ、この手のコンゲームはラストが締まって何ぼである。残念ながらこれでは画龍点睛を欠く、と言われても仕方あるまい。筆力は充分に感じさせる。是非、次回も挑戦していただきたい。
 『12月8日』のキャラクターと会話の面白さには、捨てがたいものがあった。しかし誰もが認めるように、冗長の謗りは免れないだろう。もっと刈り込んでテンポを良くした方がいい。ミステリ的妙味に乏しいことも減点材料だ。ただ、物語を紡ぎ出す才能は明らかにある。捲土重来を期す。
 冗長かつミステリ的妙味に乏しいと言えば、『愛しのリーゼ・マイトナー』もそうだ。発想や物理学的薀蓄は面白いのだが、如何せんミステリとしての結構が充分にこなれていない。もっとプロットを練り、全体を刈り込むべきだろう。
 逆に『蛙男』はミステリ的興趣には富んでいる。が、筆力に乏しく、人物造形にもメリハリがない。総体的にいかにもステロタイプだ。魅力的人物とは何か、説得力に富んだストーリー展開とは何かを、いま一度、じっくり考察してほしい。
と、ここまでは、状況次第では最終の最後の一席に潜り込めたかもしれない作品だった。以下『嘘800のイヌイくん』『タローズ・プラン』『凍りのエピタフ』『9 —ナイン—』は、どの賞でも充分1次を通過できるレベルにある。ただ、このままではどの賞でも最終に残るのは困難だろう。どこかしら見るべきところはあるが、いずれも明らかに弱い。テーマ、文章力、構成、人物造形、あらゆる分野で総じて弱い。
 『終宴』『銀色の牙』『星と月と陽のめぐりに』『暁と闇と漆黒と』『正体』は運がよければ1次通過というレベル。むろん、激戦を勝ち抜いた甲子園代表校のエースか4番くらいの価値はあるけど、ドラフトにかかるレベルには到達し得ていない。
 幸いなことに、甲子園と違って新人賞には年齢制限もなければ、在学資格もない。何年でも、続けて挑戦できるのである。
 まずは、日々、鍛錬していただきたい。いい作品をたくさん読み、なかで心酔した作品をワープロ上で筆写し、マーケティングを踏まえてテーマを厳選してプロットを何度も練り、ただひたすら我武者羅に書く。作家志望者の鍛錬はこれに尽きると思う。
 2次で読んだ応募者を、われわれは決して忘れはしない。精進の結果を、是非、見せていただきたいと、切に思う。

 2次を通過した作品については、例年通り、最終選評で触れるつもりだ。今年もやはり、激戦になる……のだろうなあ。

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