第8回『このミス』大賞 2次選考結果 千街晶之コメント

 最終に7作品も残したのは第5回以来だが、今回は2次に残った作品数が例年より多かったので、この数は妥当だろうと思う。選考には時間がかかるかと思いきや、選考委員の意見の対立点がいつになく少なかったため、わりと早く結論が出た。過去8年間、こんなに揉めなかった2次選考会も珍しい。
 今回、同じ作者による二つの作品(『バイバイ、ドビュッシー』『災厄の季節』)を最終に通すという、ミステリー系新人賞史上たぶん前代未聞の決断に踏み切ることにした。両作品とも水準が高く、なおかつ傾向が全く異なるため、どちらかに絞るのは難しいと判断したためである。この2作に、『カバンと金庫の錯綜劇』『死亡フラグが立ちました!』を加えた計4作は、いずれもこの賞に相応しい完成度とエンタテインメント性を誇る作品であり、2次選考委員全員が高い点をつけている(個人的には、『バイバイ、ドビュッシー』は「果たしてこの仕掛けはこういう書き方でいいのか?」という疑問が残ったし、『死亡フラグが立ちました!』は1次選考委員も指摘している通り、もっと短くまとめるべき話という気がしたけれど)。『太陽に向かって撃て』には否定的意見もあったものの、卓抜なリーダビリティをそなえており、最終に残しておく値打ちはあるだろう。
 最終通過作のなかで、私が最も低めの点をつけたのは『快楽的・TOGIO・生存権』。といっても、作品自体の水準が低いからではなく(むしろ逆)、明らかに『このミス』大賞向きではないと判断したからである(正直、編集部がどうやってこの作品を売るかが私には全く想像できない)。しかし、『このミス』大賞に新風を吹き込むのは、むしろ前例がないこういう作品ではないか——という他の選考委員の意見もひとつの見識として納得できるので、最終に残すことには異論なし。
 『鬼とオサキとムカデ女と』は、ありがちなモチーフ選択といい、時代考証の不備といい、弱点だらけの作品である。しかしその一方で、既成作家の作品とは異なるタイプの魅力も感じられたし、この賞の場合、完成度の高い作品より案外こうキズの多い作品が強いという傾向も無きにしもあらずなので最終に残した。

 以下は、惜しくも2次落ちした作品群について。
 まず、最終通過作と紙一重だった作品から紹介すると、『許されし者たち』はイヤミスならぬイヤホラーとでも言うべきか、生理的嫌悪感を誘う描写に力が籠もっている。ただ、読み終わってみると、それ以外はあまり印象に残らなかった。『12月8日』は、主人公のキャラクター造型をはじめ数多くの美点をそなえつつ、展開と結末が見え見えで評価を落とした。『蛙男』はミステリー的にはいろいろ工夫が凝らされているけれども、キャラクター描写のあまりのステロタイプさと文章のぎこちなさが評価に響いた。『嘘800のイヌイくん』はちょっと風変わりな作品だが、最終通過作と比較するとどうも弱い。重厚に書くべきでない話だとはいえ、この話が必要とする軽快さのレヴェルよりも1ランクあっさり風味に仕上げてしまった感がある。『ライオントリオ』は文章などに才気は感じられたが、この結末は定番すぎて評価できない。『愛しのリーゼ・マイトナー』は、果たしてミステリーと呼べるかどうかという問題を別にしても、作者の独自性が滲み出ている箇所(物理学の理論がらみのくだりなど)と、型にはまった箇所との落差が気になった。『正体』は書きっぷりは悪くないのだが、今までにないミステリーを書いてみせるという冒険心に乏しいし、構成にも問題がある(関係者のメモや独白で背景を長々と説明するのは、出来れば1カ所だけにしてほしかった)。また、昨年『臨床真理』という受賞作が出ているのに、それと同じ共感覚をモチーフに選ぶという姿勢は如何なものか。

 それ以外の作品は、更に1ランクから2ランクほど落ちる印象だった。『凍りのエピタフ』は構成がストレートなわりに読みづらい。ただし、昨年の応募作と比較すると驚くほどの進境を示した点は大いに評価したいと思う。『タローズ・プラン』は構成は凝っているのだが、トンデモすれすれの奇抜なアイディアにもう少し説得力を持たせてほしかった。あと、実際に起こった事件を引き合いに出すのなら、「津山事件はその凄惨さ故、別名『鬼熊事件』とも呼ばれ」といった誤解を招く記述が冒頭にあると、それだけでいい加減な印象を与えてしまうのでもっと気を配ってほしい。『星と月と陽のめぐりに』は、今話題の中国におけるウイグル族の民族問題というモチーフと、幾分古風なロマンティシズム溢れる雰囲気とが上手く融合しておらず、なんだか木に竹を接いだような印象。『暁と闇と漆黒と』は悪い意味でライトノベル的すぎる。登場人物の名前が似通っていて紛らわしいのも問題。『9 —ナイン—』は、アクション描写の迫力は充分に合格点なのに対し、人物描写は小説としての最低限の水準にすら達していない。私のなかで一番評価が低かった『終宴』と『銀色の牙』の2作は、とにかく筆致にめりはりがなく、話がだらだらと締まりなく進行する点が共通している。小説というものは、面白そうな事件を書きさえすれば読者が自動的に盛り上がってくれるものではない。盛り上がるようにいろいろ工夫して書くからこそ、読者には面白く感じられるのだ——ということを知ってほしい。

 2次で落とされた人のなかには、「1次であれだけ褒められたのに……」と落ち込む方もおられるだろうが、作品にいろいろ欠点はあっても、まずは美点を的確に見出してプッシュするのが1次選考の役割なのに対し、作品の長所と短所を冷徹に秤にかけ、なおかつ「果たして商品として成立するか」をも考慮するのが2次選考の役割だと考えている。ただし、一見受賞とは縁遠そうな原稿でも、2次選考委員のうち誰かひとりにでも強い感銘を与えられれば、最終選考まで勝ち残る可能性は決して小さくないということも言っておきたい。

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