第8回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『once in a blue moon』在神英資
『チルド・リバークス』樹粧介
『閉じる水』高原山光一郎

村上貴史コメント

『once in a blue moon』は、二人の若い女性キャラクターの視点を通じて語られるオフビートな伝奇小説。この二人のほどよいルーズさが心地よい。そこにトレーディングのエピソードが混じってくる点もリズムの変化として嬉しい。要するになんとも得難い魅力を備えている作品なのである。とはいえ、それだけで原稿用紙五百枚を引っ張るのは難しい。エピソードを整理すればもっと刈り込めたであろうし、そうすれば作品全体が引き締まったはずだ。オフビートであるが故に、だらだらとしていて欲しくなかった。ヒロインが強敵を倒す“決め手”が、作品のトーンと絶妙にマッチしている点など、評価したい点が多々あっただけに残念である。
 『チルド・リバークス』は、刑務所代わりに用いられる孤島での受刑者たちの生活(制約はほとんどなく、刑務所と較べれば遙かに自由に暮らせる)を描きつつ、その島で発生する“複数の”連続殺人事件を描くミステリ。舞台も事件の構図も新鮮だし、刑事コンビの魅力もある。展開と描写がもう少し整理されていたならば、十分1次予選は突破したであろう。
 『閉じる水』は序盤のインパクトが優れていた。トライアスロンに出走を取りやめた主人公が、競技中の事故死者として自分の名が呼ばれるという経験をするのである。一体死んだのは誰なのか。そこから地方都市での濃密な人間関係が描かれ、さらに、トライアスロンというモチーフを十分に駆使した謎解きへと続く流れは鮮やか。事件の真相にもう一歩新鮮みがあれば、これまた予選通過ラインを突破できたであろう。
 投稿者各位は『このミステリーがすごい!』大賞は激戦区であることを再認識し、御自身の作品にまだ磨く余地があるかどうか徹底的に確かめてみていただければと思う。
 その激戦区に挑む応募作のなかに、別の賞の予選で読んだことのある作品が私の担当範囲だけで二作品もあったのは残念。他で落ちた作品を(小手先の修正で)本賞に送っても、正直に申し上げて予選を通過する可能性はない。来年こそは、こうした“再会”のない一年であって欲しい。

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