第8回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『巨龍の子供たち』森宮悠貴』
『夕陽に沈む』山田清志郎
『飢えた森、禁じられた森』朱雀遙
『彩りの森』小橋セラ
『フジムラカズヤのエピローグ』榊原雅彦

古山裕樹コメント

 年に一度の、きわめて面倒で大変で難儀で、そして楽しい1次選考もひとまず完了。応募される作品の数も、回を重ねるごとに増えてきました。競争も激しくなってきましたが、減点法で生き残るものよりも、思わず欠点に目をつぶりたくなるような「何か」を備えた作品をお待ちしています。

 例年と同様、惜しくも1次通過には至らなかった作品について、簡単にコメントいたします。

 『巨龍の子供たち』は、近未来の中国を舞台にした謀略もの。巨大な謀略を描きながらも個人の視点に徹してみせた工夫は面白いのですが、それゆえに伏線の弱さという欠点も抱えてしまいました。また、現政権の支配を揺るがす大物が主人公の行動範囲内に潜んでいたりするのは、作品のスケールをかえって弱めてしまうのではないでしょうか。主人公の調査行にサスペンスに乏しいのも惜しいところ。プロットの組み立てはしっかりしているだけに、緩急のつけかたを工夫していただければ、1次通過も無理ではないでしょう。
 『夕陽に沈む』は、人を殺した過去を持つ主人公が、妻の変死に遭遇したところで、過去に戻って「リプレイ」することになる物語。妻の死にまつわる謎の解決が主人公の推測にとどまっていて、明確な決め手を欠いているのは残念。また、序盤の主人公と女性との出会いから結婚に至る流れも、表面的にはよくあるエピソードばかりなので、もう少し波風があってもよいのでは。物語の骨子は記憶に残るけれど、細部の弱さが気になりました。
 『飢えた森、禁じられた森』は、横暴きわまりないアナーキーな父の描写だけでお腹いっぱいになる、迫力のある一編でした。ただし、文章が粗いことと、父以外の登場人物の行動も一貫性がなく支離滅裂だったところがマイナス。後者については、異様な境遇に置かれた人々ばかりだから……という弁護も可能ですが、単に物語の展開の都合に合わせただけのようにも見えてしまいます。奔放なキャラクターを存分に暴れさせるためにも、その土台は丁寧に固めておいて欲しいところです。
 『彩りの森』は、異次元の森に迷い込んだ二人の女性の物語。二人が森で出会う人々は優しく、ゆったりとした暮らしを営んでいます。展開もきわめて穏やか。読んでいて快い作品ではありますが、ひとつ難点を挙げるとするなら、これをミステリーの賞に応募してしまったことでしょう。ここまで穏やかな小説では、さすがにサスペンスに満ちた他の作品を優先せざるをえません。
 『フジムラカズヤのエピローグ』は、とらえどころのない事件といい、行方不明だった弟の抱えていた秘密といい、ユニークなところの多い作品でした。ただし、喫茶店を営む母と娘の存在が気になります。きわめて特殊な能力の持ち主だけに、作中ではオールマイティーな存在になってしまいました。この二人の存在があまりに強く、二人に依存した展開が目立つところは、物語の興を削ぐ一因になっていたのではないでしょうか。

 ところで、これらの作品とはまったく別の話になりますが、募集要項についてはよく確かめてください。今回担当した中にも、「注意事項」で禁じているはずの二重投稿と判明した作品がありました。妙な綴じ方をしているくらいなら我慢して読みますが、二重投稿は判明した時点で失格なので、結局どんな作品か読まずじまいでした。というわけで非常にもったいないのです。
 他の賞でも、二重投稿を許容していることはほとんどないはずです。ご注意ください。

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