第8回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント

『少女蒐集家』横溝義明
『ホールケーキとブルームーン』渡村たくほ
『Trap Song』椎名ヒロ
『こちら被害者C』阿久路
『死神の脆い杖』鎌田祐輔
『Joint World -Convergence-』佐藤弘明

膳所善造コメント

 数あるミステリ系新人賞の中でも、『このミステリーがすごい!』大賞ほど、1次予選通過の倍率が高い賞もないだろう。よって、どこかで見たり読んだりしたような話や、既存作家を彷彿させるような作品では、まず1次は通らないと思ってほしい。また広義とはいえミステリの新人賞なので、同レベルの出来の場合、ミステリとしての要素や完成度が高いものが優先されるのも当然のことである。ここにあげる六編は、他の応募作よりは、一歩も二歩も抜きんでていたが、残念ながら、1次通過作との差は大きかった。本当に激戦区なのである。来年度以降の捲土重来を期待する。
 横溝義明『少女蒐集家』と、鎌田祐輔の『死神の脆い杖』は、既存作家のルーチンワーク程度の面白さは、十分にあった。ただし、それだけだ。文章もまずくはないし、設定の齟齬や致命的な瑕疵もない。けれども、新味もない。サイコキラー対トラウマを抱えた女性警官の物語も、新宿の裏社会を舞台に小悪党がより大きな悪の陰謀に巻き込まれる話も、今や新鮮味はゼロである。
 渡村たくほの『ホールケーキとブルームーン』は、通常の非ミステリ系の新人賞であれば、十分に一次を通過するレベルにある。昨年度、「次回作に期待」で北原氏に取り上げられた作品と同じ主人公トリオを成長させ大学を舞台としていて、文章も読みやすく大きな破綻もない。ただし、『このミス』大賞に応募するには、残念ながら謎が弱すぎる。他人の考えが聞こえてしまうという主人公の特殊能力を生かすのに、無理にミステリにこだわる必要はないのではなかろうか。
 佐藤弘明の『Joint World -Convergence-』は、特殊設定のもとでのミステリだが、異世界でのルールが複雑なため、その説明に終始するあまり、物語としての躍動感や、ミステリとしてのサスペンス、さらには謎の牽引力までもが犠牲となってしまったのが残念。演出次第では、もっと魅力的な作品になったと思われるだけに残念だ。
 阿久路の『こちら被害者C』は、謎の人物Aにより集められた同一詐欺犯の被害者たちが、復讐計画を実行するお話。設定自体は、ぎりぎりまだ新味があるが、ご都合主義的な展開と、描写ではなく説明による物語進行では、やはり一次通過はおぼつかない。作者はまだ若い方であり、今後の精進に期待する。
 椎名ヒロの『Trap Song』は、一種パラレルワールド的な日本を舞台にした、”謎もある”物語。ネット世界とリアル世界を股にかけて、小学校九年生の主人公が国家を揺るがす陰謀に巻き込まれるという、一言で言えば近頃のラノベと同一平面上に立脚した作品だ。それ自体は別に何の減点対象にもならないし、むしろ、新規な試みは大歓迎。 実際、冒頭から数十ページまでは、良質の青春小説としてわくわくしながら読んだが、後半、陰謀ものになってからは、急速に魅力が薄らいでいった。その原因は、特殊な世界を構築した割に、今ひとつ説得力にかけることと、連続冷凍死体放置事件の謎事態が面白くないためだ。

 最後に、いくつか助言というか苦言を。
 一つ、無駄な改行はやめること。一文ずつの改行や、数十行ごとに複数行の改行を挿入する章立て等、明らかな枚数稼ぎは、大きなマイナスポイントである。物語には、それにあった器がある。中編や短編のネタを無理矢理引き伸ばした作品で一次通過できるほど、この賞は甘くはない。
 二つ、人まねは止めること。率直に言おう。伊坂幸太郎は一人で十分だ。好きな作家に影響を受けるのは当然のことだが、それを超えたプラスαがない限り、新たな商品として市場に投入する価値はない。新人賞受賞作とは、なによりもまず出版社にとっての魅力ある「新商品」であるべきだということを忘れないでほしい。
 三つ、安易な改稿による使い回しをしないこと。自分の作品には誰でも愛着はあるだろう。けれども、落ちたのには落ちるだけの理由があるのだ。一度どこかの賞でだめ出しをされた作品を手直しする時間があったら、ゼロから新作を書いて応募するべきだ。また、その程度の物語構築力がなくては、仮にデビューできても後が続かないだろう。
 四つ、二重投稿は言語道断。規定をしっかり読んで欲しい。判明した時点で、即、失格。今回も複数名の二重投稿者がいた。さらに悪いのは、一度落ちた作品を、ちょこっと手直ししただけで、翌年度また同じ賞に応募することだ。100%一次予選落ちするので、お互いの労力を省くためにも絶対に止めてほしい。

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