第8回『このミス』大賞 1次通過作品 21

シリアで発生した、クルド人反政府組織による日本人誘拐事件。
この事件を解決すべく、特殊チームが現地に飛ぶ!
人間の醜さや凛々しさの他、山岳冒険小説の魅力も味わえる作品。

『太陽に向かって撃て』 森山五丈

 シリア、イラク、イラン、そしてトルコ。これらの国々に分散して住むクルド人。そのクルド人反政府組織に、日本企業の社員が誘拐された。身代金として三億円を要求された企業は、問題を解決するべく五代渉外事務所の力を借りる。その民間の組織に所属するエキスパート四人が招集され、その中の一人、紀田一馬が中心となって今回の問題を担当することとなった。一馬にとっては、これがデビュー戦にあたるため、先輩の猿丸がバックアップすることになった……。
 五代事務所のエキスパートたちを序盤で読者に紹介するのだが、まず、この部分の処理が巧みである。それぞれの個性を読者にPRしつつ、それぞれの凄味もしっかりと実感させる描写になっているのだ。また、それをくどくどと言葉で説明するのではなく、象徴的なエピソードで伝えている点も高く評価したい。
 もちろん達者なのはメンバー紹介だけではない。シリアに入ってからの行動もまた鮮やかに描写されている。一馬と猿丸に加え、彼等が現地で出会う人々(日本人も現地人もいずれも)が、ときにユーモアを交えながらきちんと描きわけられており、彼等が経験する様々な冒険を通じて、その醜さや弱さや、あるいは凛々しさがきっちりと伝わってくる。
 そしてクライマックスには、山岳冒険小説の魅力が提供されるのだ。この部分の描写が、一馬の過去の経験と巧みに融合されている点も含め、実に素晴らしい。まさにクライマックスである(その先にもう一つ戦闘場面としてのクライマックスも用意されているのだが)。
 これからの選考の過程において、冒険小説としての新鮮味に疑問が提示される可能性はあるが、それでもやはりこの作品の魅力は捨てがたい。タイトルの意味も含め、とにかく贔屓したくなるのである。
 まだデビューが決まったわけでも何でもないのだが、今から続篇を愉しみに待ちたくなる作品だ。

(村上貴史)

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