第8回『このミス』大賞 1次通過作品 19

奪われた三億円を取り戻せ!
コンゲームを仕掛ける一族と私立探偵、それを阻止しようとする美女と高校生。
二転、三転する大騒動を描くユーモア・サスペンス。

『ライオントリオ』 福井岳士

 募集要項に「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」とあるように、本賞では”読者を楽しませること”が最も重要なポイントになる。設定やプロットだけではなく、人物像や文体にも細工を施すような”貪欲なサービス精神”は強力な武器になり得るわけだ。本作はまさしくその好例にほかならない。
 咲森家の庭に埋められていた三億円が盗まれた——という連絡を受けた私立探偵の駿河大は、事務所が入っている雑居ビルのオーナーの娘・花宮春香とともに調査を開始した。いっぽう咲森家の長女・由麻は、高校の同級生である宮島宏樹に相談を持ちかけていた。やがて悪徳企業家・小末篤月が犯人だと判明し、咲森家と駿河は小末を詐欺にかけて金を取り戻そうとするが、花宮と宮島はそれを阻止するために手を組むのだった。大掛かりな詐欺は成功するのか? そして背後に隠された真相とは?
 三億円を奪還するためのコンゲームがストーリーの中心だが、本作にはさらに奥が用意されている。様々な思惑が絡まり合い、計画が一つの結末を迎えたところで、より大胆な“騙し”が作動するのである。読者の意表を突くために編まれた多段構造のプロットは、いかにも著者の稚気を感じさせる微笑ましいものだ。
 そしてもう一つ——本作の大きな魅力としては、メタの視点を介在させたユーモラスな語り口も挙げられる。アクの強いキャラクターたちの会話、随所に込められたギャグなどを介して、本作は洒脱なユーモア小説としても楽しめる。このセンスが今後の創作に活かされる可能性を鑑みても、要注目の書き手であることは間違いないだろう。

(福井健太)

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