第8回『このミス』大賞 1次通過作品 18

名前を次々と変える女と、女を題材に番組を作るテレビ局社員。
未解決事件を追う警官に、不倫に溺れるサラリーマン。
それぞれの視点を通して女の正体が明かされる、欲望と妄執のサスペンス。

『許されし者たち』 旗本浩二

 他人の戸籍謄本を使って、次々と別人になりすます謎の女。彼女の正体を探るドキュメンタリー番組が作られたが、そこにやらせ映像が含まれていた。テレビ局に勤める香久は真相解明を命じられる。いっぽう、定年退職を控えた山形の警官・雑崎は、過去に起きた失踪事件の解明につながる情報をつかんで、単身上京する。レストラン運営会社に勤める三浦は、妻子がいながら女癖が悪い。新たな女性と出会った途端、これまでの不倫相手を何とか遠ざけようとするが……。
 不祥事の収拾を命じられたテレビ局社員・香久、昔の未解決事件を追う警官・雑崎、不倫に溺れる妻子持ちの男・三浦。三者の視点からの物語に、問題のドキュメンタリー番組の内容が加わって、謎の女の正体を多方面から浮かび上がらせる。
 特に香久や雑崎の視点で語られる部分では、いくつもの断片から女の肖像を徐々に組み立てていくプロセスに読み応えがあり、情報を巧みに分割して提示する作者の技量が発揮されている。警察小説や私立探偵ものでよく見かける、捜査の積み重ねによる面白さを堪能できる部分だ。
 いっぽう、現在進行形で泥沼に踏み込んでしまう三浦のパートでは、遊びで近づいたつもりの女の危うさが徐々に明らかになるエピソードが重ねられ、不穏な緊張が高まっていく。最初は欲望に導かれ、やがて破滅の予感を抱いて追い詰められる。鮮烈なサスペンスを味わえる部分だ。
 こうした二つの流れが合流するところで、物語の流れは一気に加速する。特に終盤、ある特殊な視点からの描写は、独特のぞくぞくする感覚を満喫できる。
 物語の細部に至るまで丁寧に組み立てられている。テレビ局社員や老警官、女癖の悪い男といった主要キャラクターの日常描写はきわめて堅実。しっかりした土台の上に、きわめて現実離れした妄執を解き放ってみせるのだ。

(古山裕樹)

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