第8回『このミス』大賞 1次通過作品 15

魔物にとり憑かれることで魔力を身につける「魔党」たち。
我々のものとは異なる歴史をたどった昭和初期の大阪を舞台に、
大日本帝國のために働く、魔党の活躍を描く。

『暁と闇と漆黒と』 塔野夏

 舞台は、昭和初期の大阪界隈。大日本帝國のために働く「魔党」という者たちがいた。彼らは魔を寄せる体質を持ち、魔物にとり憑かれることによって、特別な魔力を身につける。子どもの頃にその徴候があらわれ、そのまま放置すれば魔物にとり殺されかねないが、大人の魔党に弟子入りして修行することにより、魔力をコントロールできるようになるのだ。
 赤月雨城は、魔党の中では変り種だった。三十歳を過ぎているのに、大した魔力を振るうことができないのだ。ある日、雨城は十ぶりに師匠に呼び出された。彼は三番弟子の理雨を連れて、師匠の元へ向かった……。(第一話「阿倍野にて」)
 雨城の一番弟子・雨太郎は、魔党の警察組織「第七部」の命により、二十五年前の「赤月雨蘭事件」に絡んだ人物を調べることになる……というのが、第二話「第七の男」。
 そして「闇の魔」を取り入れてしまった少年・音切九澄が、雨城たちと交錯する……というのが、第三話「遠路」。
 「魔党」という設定は面白いし、登場人物たちも生き生きと動き回っている(やや“キャラクター小説”的な側面はあるが)。最初は“歴史に隠された存在”という設定かと思ったら、一般人も魔党のことを知っている。我々のものとは異なる歴史をたどった昭和初期、ということなのだろう。
 ただ、赤月雨城はその後どうなるのか、などが描かれていないことは気になった。これは明らかに、同設定によるシリーズ化を意識して書かれているのだろう。要するに「魔党」シリーズ第一作ということである。それ自体は別に悪いことではないが(シリーズ化前提の作品でミステリーの新人賞を受賞した例は過去に幾つもある)、本作だけでの“完結性”が、もう少し欲しいところではある。

(北原尚彦)

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