第8回『このミス』大賞 1次通過作品 14

女子大生殺害の凶器に使われたのは、ライオンの牙だった!
殺人現場を目撃した青木は、それ以来不思議な現象に悩まされる。
青木を鑑定した心理学者の朝永は、青木の病とある薬の存在に気づき——。

『銀色の牙』 月村日音

 とにかく、灼熱のアフリカ——マサイラマ国立保護区でライオンの狩りを見つめる冒頭を読んでみて欲しい。一読して、それが十六歳の筆によるものだとは、まず見抜けまい。 また、壮大なテーマを匂わせながら殺人事件を追っていく物語の構築力においても、豊かな才能を充分に感じさせる。成人投稿者でも、ここまで「読ませる」レベルに達しているひとは、そうはいなかった。
 大学構内で女子生徒が刺殺され、検視の結果、凶器は“ライオンの牙”と判明。さらに周囲で凶行が続くなか、容疑者として上がったのは、かつてこの街で“殺人鬼”と呼ばれ、数日前に出所したばかりの男——落合だった。また、凶行のひとつを目撃してしまった高校生——青木秀貴は、それ以来不可解な声に悩まされており、オープンスクールで知り合った心理学者——朝永に助けを求める。鑑定の結果、青木にはもうひとつの人格が備わっていることが明らかになるが、彼の過去を調べるうちに、朝永は続発する刺殺事件の意外な犯人と、ある新薬の存在に行き着く……。
 ミステリとしての手続きを丁寧に踏んでいくも、多重人格や新薬といったものが割とあっさり使われてしまうあたり、もう少し伝奇的な味付けをしたほうが、最後の壮大な試みに説得力と迫力を増すことができたかもしれないし、そうなればプロローグの意味合いもより読み手の胸に残ったであろう。とはいえ、心理学を始めとする細部の作り込みにも好感が持てるし、終盤近くにおける缶コーラを積んだトラックが川に転落することで気付く件など、とても面白く読んだ。本作の評価だけでなく、今後の創作に期待が持てる有望な新人の登場を心から喜び、推薦したいと思う。

(宇田川拓也)

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