第8回『このミス』大賞 1次通過作品 13

山村から港町、大都会へと流浪を続ける主人公と稔。
少しずつ明かされる一風変わった世界観と
重苦しく展開される物語は、言葉では言い表しがたい魅力的な作品。

『快楽的・TOGIO・生存権』 太朗荘史郎

 もしかすると『このミステリーがすごい!』大賞向けの作品ではないかもしれない。だが、このわたしが読んでしまったからには、通さないわけにはいかない。できれば2次選考にも通って頂いた上で、最終選考委員の中でも特に大森望氏のご意見を伺いたいところだ。
 というのも、本作品の基本設定はSFなのだ。舞台となるのは未来社会なのか、それとも歴史自体が異なる社会なのか、とにかく我々のものとは違った世界。
山村に住む主人公は中学生の時、口減らしのために捨てられた子供を拾う。熱のために聴力を失った子供は「白」と名付けられる。
 だがそれゆえ、結果的に白を捨てた家に対して当て付けをしてしまったこととなり、主人公一家は村八分にされる。クラスメイトに白の兄・稔がいたために、主人公本人も学校でいじめられるようなった。
 ある日、主人公と稔は事件を起こしてしまう。二人は村から逃げ出して、とある港町に流れ着き、怪しい仕事に従事することとなった。それなりにそこでの生活に馴染んだ主人公だったが、ここでも事件を起こし、いられなくなる。
 彼が次に目指した場所。それは大都会「東暁」だった……。
 ——こう説明すると「どこがSFなんだ」と思われるかもしれない。確かに、いわゆるSFプロパーな作品とは、ちょっと違う。どちらかというと、最近しばしば見られるようになったSF設定の文学作品の方が、ジャンル的に近いのではないかと思われる。少しずつ明らかになる世界観は一風変わっているし、そんな世界観の一方で、物語はひたすら重苦しく展開される。……この作品の魅力は、言葉ではとても言い表しつくすことができない。是非とも実際にお読みいただきたい——と言えるようになって欲しいものである。

(北原尚彦)

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